第12話 貴女の味方

 人間、本当にあり得ないことに遭遇したら、声を出せないもんだな。


 ドラマとか映画とかじゃあ叫んでるけど。


「ベガ」


 頭の中では冷静に考えているつもり。


「なあ、ベガ」


 ただ、カラダは正直で。


 手も足も震えて仕方がない。


 急に足の力が抜けてベガの真横に座り込んでしまう。


 これで完全に惨状が理解できた。


 理解なんてしたくなかったけど。


「……アルタイル」


 漸く声を発した彼女の手は赤黒い血で濡れていた。


 ハサミを両手で握り締め、震えている。


 そして、腹部から血を流している紫苑。


「貴女が刺したの」


 吐き気を抑えながら問う。


 見たらわかるけど。


 聞かなくてもわかるけど。


 この場を静寂にしたくなくって。


「う……ん」


 あぁ、やっぱり。


「ベガ」


 向かいあって肩を揺すり、焦点の合わない視線を無理矢理合わせる。


「なにがあったのか話して」


 正当防衛なのか、殺意をもって刺したのか。


 誰かが来る前に聞いておきたかった。


「ボクはなにがあってもベガの味方だから」


 徐々に視線が合っていくと同時に、


「あの、ね」


 彼女は話し始めた。


 文脈が滅茶苦茶でわかりにくかったけど、要するに、ライブが終わった直後、この部屋に誘ったのは紫苑。


 彼女は、


「今までベガさんに憧れてるって言ってたじゃないですか。あれ、アルタイルさんに近づくための嘘だったんです。今日のライブ、ほんっとに感動しました。アルタイルさんが常に貴女のことを気にかけていて……私、貴女を支え続けるアルタイルさんのことが好きになっちゃいました」


 と、ボクのことを褒めて褒めて褒めまくったらしい。


 ベガは黙って、我慢して話を聞いていたらしんだが、うっとりとした表情を浮かべる紫苑に怒りが沸き、机の上に置いてあったハサミで刺してしまった。


 これが、起こったことの全て。

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