第4章 予感は当たる

第11話 武道館ライブ

 カラダに会場の熱気がまとわりついている。


「無事に終わったあ」


 最後の挨拶後、ボクたちは両手を繋いで頭を下げた。


 顔を上げたベガの表情は明るく、幸せで満ちているように見えた。


 ベガが倒れることを心配していたけど、無事に終えられてなにより。


 安堵からため息をついていると、


「お疲れ」


「あっ、静姉!」


 見学に来てくれていた静姉に声をかけられた。


「今までのパフォーマンスの中で一番良かったと思う。流石だね」


「静姉」


 事務所の誰よりもボクたちのことを見てくれて、応援してくれた、グループを離れてからも大切な仲間。


 温かい言葉に目が潤んでくる。


「我慢することないよ。一生懸命頑張ってきたんだから」


 もう限界。


「し゛す゛ね゛え゛ぇぇぇぇぇぇ」


「よしよし」


 ベガのことを散々精神年齢が幼いと言っておきながら、ボクも人のこと言えねえな。


 優しく抱きしめてくれる静姉に甘えてギャン泣きした。


 見学に来てくれていた他の先輩方や後輩、スタッフさんたちから生温かい視線を感じるけど、知らん。


 頑張ってきたんだから泣かせろ。


 数分ぐらいグスグス泣いていたら、


「あれ、ベガさんは?」


 声につられて周りを見回すが、彼女の姿はどこにもなかった。


 先に楽屋に戻ったのか?


「金子もおらん」


 背筋を冷たい物がすっと通った気がした。


 ゆっくりと静姉からカラダを離す。


 静姉は険しい顔をしていた。


「嫌な予感がするわ」


 静かに頷き、肯定の意を示す。


「捜してきます」


「私も――」


 彼女が言葉を言い終える前にボクは駆け出していた。


 言い表せない焦燥感。


「ベガ! どこにいるの。ベガ!」


 何度呼びかけても返事はない。

 

 先ほどまでの高揚感はすっかり消え去り、どんどん冷たい汗だけが流れていく。


 廊下を走り回る。


 ふと、どこからかすすり泣く声が聞こえた。


 本当に小さな声。


 いつの間にかスタッフさんはいなくなっていた。


 声が聞こえる方に、何故か忍び足で近寄っていく。


「ここ?」


 確定。


 使われていないはずの控室から、女性のすすり泣く声。


 どこか、聞きなじみのある泣き方。


 まさか。


 恐る恐るドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けた。


 目に入ったのは、ボクと同じ衣装を着た、


「ベガ」


 やっぱり彼女だった。


「こんなとこでなにしてんの」


 ボクの声が聞こえているはずなのに、無反応。


「おい、ベガ」


 ドアを閉めて彼女に近づくと、


「ん?」


 香って異臭。


 嗅いだことのある匂いに、足が止まる。


 けれど、ベガの肩越しに見えてしまった。


 誰かが仰向けで倒れている。


「えっ」


 思わず叫びそうになって口元を押さえた。


 反射的に。


 泣き続けるベガ。


 なにがあったのか。


 確かめなければいけない。


 謎の使命感にかられ、勇気を振り絞って一歩、二歩と歩みを進め。


 後悔した。


 いや、発見したのがボクで良かったのかもしれない。


 だって倒れていたのは。


「紫苑……」

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