第10話 危惧
「あのね」
先ほど「大丈夫」と言っていたけれど、まだまだ本調子ではないのだろう。
静姉はいつもよりゆっくりとした口調で話し始めた。
「ベガって狭く深い人間関係の中で生きてるよね。で、その狭い輪の中で、グループにいたときはメンバーに。二人になってからは、貴女に依存してきた。精神的に自立できていないから、あの子」
静姉の指摘は的を射ていた。
大人になっても子どもみたいな人はいるだろ。
ベガがそんな感じ。
まぁ、まだ高三なんですが。
子どもと言えば子ども。
カラダはね。
精神年齢的には一つ年下のボクよりもずーっと幼い。
下手したら小学生の紫苑と同じレベル。
「私ね、二人になってからずっと心配してたの。前にも言ったと思うけど」
静姉の負担にならないように相談はなるべく控えていたが、彼女の方から定期的に【最近調子はどう?】とメッセージが送られてきた。
それに返信する形で、ボクはちょこちょこ相談していた。
流石にベガが刺されたときは取り乱して、即行で静姉に電話しちゃったんだけども。
「今年に入ってから貴女に対してベガの依存度が高まっていたじゃない?」
「はい」
もうね、ホントに子どもみたい。
トイレ行くのも自販機に飲み物を買いに行くのにもついてくる。
自分は用事ないのに。
「でもそれって、刺されたのが影響してるんだと思うんです。一人だと怖いから、ベッタリくっついてくる、みたいな」
若干鬱陶しいと思うことはあるけれど、事件があったんだから仕方ないって受け入れていた。
自然に。
今気づいたわ。
「そうね。仕方ないことだと思う。でもね」
静姉は一呼吸置いた。
「私が危惧しているのは、貴女に依存しているベガがなにかしでかさないか、ってことよ」
先ほどよりも言葉に力が込められているような気がした。
「しでかす?」
「そう。紫苑ちゃんに嫉妬してるかも? じゃなくて、確実に嫉妬してるわよ」
ボクが紫苑を見つめていたときの、ベガの鋭い視線。
「あー……」
「貴女は近くにいすぎて盲目になってる。思い出してよ、昔もあったでしょ」
そういえばそうだった。
グループに所属していたころ。
グループのメンバーが別のグループの子と仲良くしていたら、鋭い視線で相手を睨みつけていた。
今日と同じようなケース。
何度もあったのに。
どうして忘れていたんだろう。
「このままだと、とんでもない厄介事に巻き込まれるわよ。今日のことや今までの話から察するに、もうベガの精神は限界でしょ」
さっきの「しでかす」という言葉が重く両肩にのしかかる感覚。
「悪いけど、自分を傷つけるならまだいい。でも、紫苑ちゃんや貴方に危害が及ぶかもしれない。それでも貴女はベガを支え続けられる? その覚悟はある?」
占い師みたいなことを言う静姉。
笑い飛ばすことは簡単だった。
でも、真剣な口調に茶化すことはできなかった。
「ボクは……」
静姉の問いにハッキリと答えが出せないまま夜が更けていき、
「またなにかあったら連絡して。できるだけ力になるから」
彼女の言葉で電話が切られた。
そうしてボクは、ベガがなにかやらかさないか心配すると同時にライブに向けての忙しい日々をなんとかこなしいていったのだった。
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