第9話 静姉に起きたこと
「あー」
結構な長文でメッセージを送ってしまった。
誰にって?
勿論静姉に。
ご飯を食べて、お風呂に入って。
ベッドに寝っ転がりながら、出来事を冷静に思い出しながら。
最近『金子紫苑』という10歳の子が事務所に所属したこと。
ベガに憧れていること。
容姿が昔のベガにそっくりなこと。
ボクが連絡先を交換して『紫苑』と呼ぶようになったこと。
今日、ベガが紫苑にダンスを教えていたこと。
鋭い視線を向けていたこと。
体力差を考慮せず、ベガのペースでレッスンを行ったこと。
狭い交友関係で生きることを好んできたのに、紫苑にあっさりと連絡先を教えてしまったこと。
「ごめん、静姉」
完結にまとめたつもりだけど、打ってて疲れた。
スマホを握ったまま目を閉じる。
既読がつくのも返信も少し先だろう。
「てか、やっぱり送らない方がよかったかな」
後悔。
静姉の負担にならないかな。
もう送っちゃったから手遅れなんだけど。
静姉。
本名『白鳥静花』、23歳。
自分のことよりもメンバーのことを優先して。
優先しすぎたが故に、自分の体調不良、メンタル不調を後回しにしてしまった人。
ボクたちがグループを脱退させられた2022年の秋ごろから、歌番組の出演を見合わせるようになって。
その年の年末の歌番組。
歌う直前に過呼吸で倒れた。
なんとかステージには立ったものの、歌い終わった直後に倒れて病院に運ばれて。
そのまま休養。
「リーダーの自分がこんなことになって申し訳ない」
一連の流れを、静姉が自分を責めていることをボクは事務所のスタッフさんから聞いた。
相談に乗りたかった。
力になりたかった。
でも、外野のボクらにはどうしようもないことだった。
体調管理は自分で行うこととはいえ、静姉の異変に気づいてもっと早く休養させなかった事務所が憎かった。
去年のことを思い出し、ぼーっと天井を眺めていたそのとき。
ピロリン。
「ん?」
着信音がまどろんでいた意識を現実に引き戻した。
のっそりとスマホの画面を見る。
「えっ、静姉じゃん!」
慌てて電話に出た。
「静姉!」
「あ、ごめん。寝てた?」
久しぶりに聞く大切な元メンバーの声。
不思議と胸が温かくなった。
「ううん」
「そう」
「体調は――」
「今は、っていうか最近は安定しているから大丈夫。ちょっとさ、文字を打つよりも直接電話で話した方が早いと思って電話しちゃったんだけど……大丈夫?」
「うん。大丈夫」
電話とはいえ、寝ころんだまま話をするのは失礼だよな。
カラダを起こしてスマホを耳に当てた。
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