第3幕 不穏

第6話 ブラック事務所

 紫苑と連絡先を交換した翌日。


 ボクたちはライブの打ち合わせで今日も会議会議会議。


 まぁ事務所の人たちが勝手に進めて、決めていくことに頷くだけなんだけどな。


 ボクたちに決定権なんかないわけ。


 ボクたちのライブなのに。


 ボクたちを観にファンは予定を空けて来てくれるのに。


 ため息をつくのは、口を挟むのは最初の方だけだった。


 もう諦めたよ。


 出した案はホワイトボードに書かれることなく、即却下されるんだから。


 マジうちの事務所ブラック。


 グループのときはこんなことなかったのにな。


 メンバーが沢山意見を出して、リーダーの静ねえ――白鳥しらとり静花しずかが意見をまとめてくれていた。


 事務所が反対してきたときは「どうしてできないのか」徹底的に闘ってくれた。


 今思えば、ボクたちが積極的に意見を出せたのは静姉のおかげだったんだなあ。


 赤ちゃんの頃から事務所に所属している静姉。


 そこら辺のマネージャーやスタッフよりも事務所にいる年数は長い。


 所謂いわゆる古株ってやつ?


 芸歴=年齢(23歳)。


 だからこそ、事務所に有無を言わせない力を持っていた。


 責任感が強くて、メンバーのことを気にかけていた静姉。


 彼女は現在、活動休止中だ。


 休止というか休養って言った方が正しい。


 事務所はHPで『体調不良』を理由に挙げて、『復帰時期は未定』と発表した。


 静姉はいろんなことをしょい込みすぎたんだ。


 メンバーが事務所と揉めたときは間に入って。


 ボクたち『MiLKY WaYミルキーウェイ』がグループから独立させられそうになったときもそう。


「独立したくない」


「グループの派生ユニットとして活動していきたい」


 ベガとボクの意見を尊重して、事務所と何日も話し合ってくれた。


 結果はご存知の通り。


「私の力が足りなくて……ごめんね」


 そんなに気に病むことじゃないのに。


 凄く申し訳なさそうな顔をして頭を下げてくれた。


 静姉元気かな。


 彼女のことを思い出すと同時に、ベガが病室で呟いた言葉を思い出す。


「もうステージに立ちたくない」


「もうお人形は嫌だ」


 ごめんね、ベガ。


 貴女はボクが一緒にいるだけでいいって言うけれど、自分が情けなくって仕方ないよ。


 大切な人を守れず、静姉のように事務所と闘う力がない自分が。

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