第5話 隠し事

 会議室のドアを開けると、スタッフさんと話をしていたベガがこちらを振り返った。


「アルタイル!」


 勢いよくこちらに駆け寄って来たかと思うと、


「なにしてたの?」


「なんであの子と一緒にいたの」


「いつの間に仲良くなったの」


 物凄い勢いで詰め寄られる。


 ちょいちょい、スタッフさんと話している途中でしょうが。


 なんて口を挟む隙がない。


 てか、なんでボクが紫苑と一緒にいたことを知ってんだよ。


 さてはスタッフさんがチクったな。


 別にやましいことはしてないから、「チクった」って言い方はおかしいか。


「私よりもあの子の方が大切なの?」


「私よりも大事なの?」


「気になるの?」


「ごめん、ごめんって」


 謝る理由なんて一つもないのに、兎に角ベガを落ち着かせなきゃって謝っていた。


 というか、これは私の落ち度。


 依存体質のベガにとって、ボクと紫苑が仲良くなるっていうのはある意味危機的状況なんだろう。


 推測、じゃなく確信。


「ボクの隣はベガだけだし、一番大切なのはベガだよ」


 そっと抱きしめて頭を撫でる。


 約10cm身長が低いベガ。


 すっぽりボクの腕の中に収まる。


 傍から見たらイチャついているような感じなんだろうな。


 ファンの間だけじゃなく、スタッフさんの間でも「あの二人は付き合ってるんじゃないか」って噂されているし。


 あながち間違いではないけど、真実ではない。


 ボクたちは強い絆で結ばれた友人以上恋人未満の関係。


 あんまり理解してもらえないけど。


「アルタイル……」


 声が潤んでいる。


 泣くのを我慢してるな。


 これは絶対紫苑とのこと、話さない方がいい。


 今までの経験と直感がそう告げる。


 あの子を「紫苑」と呼ぶと決まってからのこと。


 紫苑と連絡先を交換し、少し踊りについてアドバイスをした。


 そのアドバイスをきっちりメモしていた。


 好感がもてる。


 だからこそ、事務所に潰されないように守ってあげないと。


「じゃあね。なにかあったら連絡して。相談に乗るから」


 ボチボチ会議室に戻ろう。


 別れを告げたボクに、


「私も星神学園なんです!」


 紫苑は笑顔でそう言った。


「あ、マジ?」


 思わぬ共通点。


 ベガとボクは、幼稚園から大学までエスカレーター式に進学ができる『星神学園高校』に通っている。


「はい、そうなんです」


 彼女は星神学園小学校。


 ちっぽけな繋がり。


 けれど、少しだけボクと紫苑の心の距離が縮まった気がした。

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