第4話 気にかかる
ボクは再び彼女と会った。
待ち合わせしていたわけでも、約束をしていたわけでもない。
ライブの打ち合わせの後、マネから「金子がスタジオで練習している」と聞き、ちょっと覗いて見ようと思ったのだ。
ただの好奇心。
衣装のことで打ち合わせが長引いているベガ。
このままここで暇つぶしをするよりも彼女の様子を見に行きたくなったボクは、荷物を持って会議室を出た。
コンコン。
事務所の中で一番狭いレッスンスタジオ。
レッスンの邪魔にならないよう控えめにノックをしてドアを開けた。
そこにいたのは。
ボクもベガもお世話になった激コワ先生と、Tシャツ短パン姿の金子紫苑。
「マジか」
声が漏れてしまったのは許してほしい。
小声だったし。
鏡に映ったボクは先生に会釈をして、スタジオの隅に座って金子を見守る。
「マンツーマンで指導かよ」
普通は先生一人に、生徒は複数人。
なのに一対一。
「こりゃーデッカイ期待背負わされてんな」
この先生に指導されれば、ほぼデビューは確定。
デビュー後に聞いた話だけど。
「潰れちゃうんじゃねえの」
シンプルに心配になる。
無関係。
知り合ったばかりとはいえ。
見れば見るほど、昔のベガの姿と重なって。
現状のベガと重なって。
入ったばかりだからデビューは当分先になるんだろうけどさ……うちの事務所ブラックだからなあ。
ため息をついていると、
「はい、10分休憩」
パンッと先生が手を叩き休憩の時間となった。
先生に頭を下げた金子はこちらに駆け寄って来た。
「あっ、あの。今日は来てくださって――」
「そんなにかしこまらなくていいよ。勝手に来ただけだし」
ペコペコ頭を下げる彼女が可愛らしい。
練習中は真剣な顔つきをしていた金子。
やっぱり愛らしい子どもなんだな。
人のこと言えないけど。
17歳。高校2年生はまだまだ子どもです。
「あっ、あの」
「ん?」
俯き加減に両手に力を込め、
「もしよければ、名前で呼んでもらえませんかっ」
勢いよく顔を上げて言った。
なんというか。
拍子抜け。
あまりにも必死に言葉を紡ごうとしたように見えたし。
「そんなこといいよ」
笑いながら言ってしまったのは、その姿が昔のベガと重なったから。
彼女も「私たち一歳違いだし、名前で呼び合わない?」とありったけの勇気を振り絞ったような顔で言ってきたのだ。
「じゃあこれからは『紫苑』って呼ぶね。よろしくな」
「はい!」
レッスンで疲れているだろうに、名前を呼ばれた紫苑は満面の笑みを見せてくれた。
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