第2幕 出会い

第3話 慕われる

 2023年8月下旬。


 新曲のプロモーションを一人でこなすボクと、少しずつ体重が戻るベガ。


 元気にはなっていない。


 失敗を許されない武道館ライブに向けて、毎日毎日ハードな練習。


 食欲はあるみたいだから、そこは安心。


 なんだけど、練習後はいっつもスタジオの床に倒れ込んでる。


 優しいスタッフさんは酸素スプレー缶を口にあてようとしてくれるのに、ベガは手で払いのけてしまう。


 スタッフさんがボクに視線で助けを求めて、ボクが代わる。


 最初の頃はね。


 最近では酸素スプレー缶はボクの担当になっていた。


 別にいい。


 面倒じゃないし。


 ベガのためなら、ボクはなんだってやれる。


 ベガのためにボクは生きているんだ。


 自分でも意識しないうちに共依存になっていたボクたちに、ある変化が訪れる。


「初めまして。金子かねこ紫苑しおんって言います。これからよろしくお願いします!」


 練習後、いつも通りベガの世話をやいていたボクは、スタジオに入って来た少女に目を見開いた。


「えっ……」


 小学生の高学年ぐらいだろうか。


 黒髪のおさげ、ジャージを身にまとった少女の容姿は、昔のベガそっくりだった。


 金子紫苑。


 そう言えば、「ベガさんに憧れているんです」と言って新しく事務所に所属した子がいるってマネが言ってたな。


 ぼーっと彼女を眺めるボクを不審に思ったのか、ベガがカラダを起こした。


「わっ、昔の私にそっくりだね」


 先ほどまで荒い呼吸をしていたというのに、彼女は立ち上がって


「よろしくね」


 少女に手を差し出した。


 いきなり憧れの先輩から声をかけられて動揺したのか、


「はっ、はい!」


 上ずった声で金子紫苑は返事をし、同じように手を差し出した。


 微笑んでいるベガ。


 嬉しそうに笑っている少女。


 もし、なんて考えるだけ無駄ってことはわかってるけど。


 もし、金子紫苑が現れなかったら。


 ボクたちは。

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