第1幕 ベガの身に起きたこと

第1話 退院

「体調は?」


 荷物をまとめながら、


「ぼちぼちかなあ」


 ベガは力なく笑った。


 ぼちぼち、か。


「ベガ」


 少し強い口調で言う。


「本当はまだ復帰するには――」


「仕方ないよ。事務所が決めたことだもん」


 病院食が口に合わなかったらしく、痩せてしまったベガ。


 元々彼女は「元気いっぱい!」的なアイドルではなく、清楚系というか、癒し系のアイドル。


 痩身だったし、変化に気がつかない人は沢山いると思う。


 でも、同じ年に事務所に所属して、一歳違いで仲良くなって、2017年に同じグループでデビューして。


 今年の7月7日に二人組のアイドル『MiLKY WaYミルキーウェイ』としてデビュー。


 グループのときは本名で呼び合っていたけれど、二人になってからは「テレビでうっかり本名を呼んでしまわないように」って事務所から「アルタイル」「ベガ」って呼ぶように言われて。


 忙しさで倒れそうになる日々。


 笑顔をつくり続けなければいけない日々。


 大変、という二文字では片付けられないほど忙しさに殺されそうになった毎日を乗り越えられたのは、ベガがいたから。


 ボクたちは二人で一つだから。


 わかるんだよ。


 ベガの発言は強がりだって。


「大丈夫だよ。アルタイルが傍にいてくれるんだもん」


 微笑む彼女の言葉を鵜吞みにはできない。


 そのカラダで、武道館ライブに向けての過密スケジュールに耐えられるのか。


 心配だ。


 根本的に、早期退院、早期復帰には大反対なんだ。

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