シスターフッドのような絆

佐久間清美

本編

開幕

幸せ 不幸せ

 2023年9月×日。


 満席の武道館。


 アイドル、アーティストが憧れる舞台。


 ボクたちにとっては、デビューから3か月連続シングルリリースのゴール地点。


 沢山のファンが声援を送ってくれて、事務所の先輩方や後輩に見守られて辿り着いた華やかな舞台。


 達成感、喜び。


 カラダ全体を包み込む会場の熱気。


 夢見ていた場所に立てて嬉しいはずなのに、苦しみがこみ上げてくる。


 アンコールの曲を歌いファンに手を振りながら考える。


 隣に立つパートナーのベガ。


 もう彼女は限界だ。


 壊れる寸前、と言ってもいい。


 兎に角、万全の状態じゃない。


 ライブ中倒れるんじゃないかってヒヤヒヤしていた。


 MiLKY WaYミルキーウェイとしてデビューして約3か月。


 元々はグループに属していたボクたちは無理矢理独立させられた。


 事務所がゴリ押ししてくれたおかげで曲を出せば歌番組に必ず呼ばれ、バラエティ番組クイズ番組などにも引っ張りだこ。


 幸せだと思うだろ。


 違うんだよ。


 ボクたちはこのままでは幸せになれないと薄々気がついていた。


 薄々?


 いや、とっくに。


 幸せになるためには逃げださなきゃいけない。


 苦労して手に入れたこの地位を捨ててでも。


 なにかを得るには対価……代償が必要だろ。


 それでも、ボクたちなら大丈夫。


 二人ならどこへでも、どこまででも行けると信じている。


 そうだよなあ、ベガ。

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