場末のカイゼル髭
「どう思う?」
場末の酒場では、二人の薄汚い男が喧騒を背景音楽にして語りあっている。
カイゼル髭は、顔の
赤ら顔はくつくつ笑いながらその問いに答えた。
「どう思うもなにも、ヘロウデはアンデゴ公(ヘロウデの兄)を殺したに決まってる。
このような
「ケイリーンだよ、アンデゴ公を殺したのは、俺が思うにね」
「どうしてそう思う?」
「簡単さ、ヘロウデのほうがカッコ良かったからだよ」
カイゼル髭は冗談めかした口調で語るが、目の奥には多少の真剣みがあった。
実際ヘロウデは若い頃には薔薇の騎士という陳腐すぎる褒め言葉がそのまま宮廷内で流行ってしまうような、まれにみる美男子だった。中年太りが深刻な今でも、その面影がヘロウデの顔には残っている。
「しかも夫を殺して失うはずの次期王の妻の座も、ヘロウデと結ばれればそのまま保持できるってわけさ」
カイゼル髭はその自分の髭を指でもてあそびながらそうつけ加えた。
「ケイリーンがそれぐらいやりそうなのは否定できないな」
「僕だって王は嫌いさ。だけどね、この件はケイリーンのほうがクロだと確信してる」
カイゼル髭の脳裏には、長くない宮廷生活で見た、花のようにというこれまた陳腐な比喩がそのまま出てくるような美しいケイリーンの姿と、その彼女から発せられる毒の強さが思い浮かんでいた。
「お前もアイナバ姫に対するケイリーンの仕打ちを見たら確信できるよ。アンデゴ公はケイリーンが殺したとね」
やはり冗談めかしてそう語るカイゼル髭だが、今度は目だけでなく、この台詞を発する口元さえも笑っていなかった。
その場末の酒場の、財布に二枚の銀貨しか入っていない、ボロボロの服を着たカイゼル髭の男。彼は、つい半年前までアイナバ姫の、ケイリーンとアンデゴ公の間に出来た一人娘の、教育係だった――
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