踊りのはじまり
無数のシャンデリアが真白い光を放っている。しかしその光が、酒と料理と貴族たちのひしめくテーブルまで届く頃には、濁った空気で汚れてしまって、多少の薄暗さを宿すのだった。
そんな哀れなシャンデリアの光を見つめている少女がいた。今日は少し不吉な予感がする。少女はそう思った。
「次はアイナバ、お前の踊りを見せてくれ!」
急に王の野太い声が聞こえると、少女はピクリと身体を反応させて、はいと返事をした。
王は少女を、アイナバの宝石のような緑色の瞳を熱っぽい視線で追っていた。それは酒が王にそう命じているのだろうか? 全ての上に
ヘロウデは思考を中断してアルコールを脳に回した。今夜は楽しい、メッケルのピアノもやはり美しかった。アイナバの踊りも上手いのは知っている。今日は私の誕生日。何らつまらないことなぞ起きるはずもない。月も綺麗だ。よくよくみると、大きい月は満月。小さな月は
ヘロウデは溢れる思考をなんとか断ち切って、舞台の方へ向かうアイナバを再度みた。その視線がまだ熱を帯びていることに、ヘロウデは気がつかなかったが、歩いているアイナバも、ヘロウデの隣に座るケイリーンも、彼の眼に気がついている。前者は半年前から、後者は十五年以上も前から。
「アイナバの踊りって、そんなに上手いかしら?」
妙にねばついた声でケイリーンはヘロウデに問う。夫はその問いを一笑に
「上手いかどうかではない。娘の踊りをみたいのだ」
妻はその答えこそ一笑に付すべきと心の中では思ったが、それを顔には出さずに夫の発言に
「それもそうね」
二人が会話にならないような会話をしているうちに、愛娘は壇上に上がって、お辞儀をしている。白いドレスをまとった少女は、
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