第三話 穏やか
可哀想だ、可哀想だと、惜しげもなく哀憫の目を向けては親切な言動を押し付ける、そんな学友にも、仕事仲間にも、近所の住民にも、何なら、家族にさえ、穏やかに、つつがなく接する事。
家事も、仕事も、私事も、限りなく完璧にやりこなす事。
失敗して、やはり髪の毛がないからだと思わせない事。
全身に沸き立つ、この感情を、見せない事。
怒らない事。
弱音を吐かない事。
可哀想ではないのだと声高にでも、か細くでも、言わない事。
可哀想ではないと証明する為に、全てをこなす事。
そうだ。
全部全部、自ら決めた事だ。
そうだそうだ。
誰が見ていなくても、完璧であろうと、普通であろうと、行動するのも全部全部。
この、
追い立てられる切迫感も。
全部全部。
自らが創り出した。
追い立てて、追い立てて、追い立てて。
時々、浮上する疑問に向かい合う暇さえなく、追い立てて。
ただただ、可哀想だと思われたくない一心で、頑張って来た。
悲鳴を、普通の声量に捻じ込んで、頑張って来たの、だろう。
(2023.8.3)
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