第四話 なみだ




(あ~~~~~)


 父と母と暮らす平屋の自室にて。

 土羽梨は胸の内を書き殴ったノートを机の引き出しに収めてのち、足を伸ばしては椅子を傾けてのけ反り、視界に映る天井に書き込まれた波線を遮るべく、目を腕で覆った。


(あ~~~~~)


 椅子の浮かせた部分を床につけては傾ける。

 その行為を繰り返す中。

 土羽梨は急斜面を全力疾走したい気分になった。

 とてつもなく。


(あ~~~~~も~~~~~お~~~~~)


 めんどうくさい。

 じぶんがめんどうくさい。

 とてもとてもめんどうくさい。


 いいではないかいいではないか。

 しんせつしんをありがたくちょうだいすればいいではないか。

 いいかたはわるいがりようさせてもらえばいいではないか。

 ありがたや、ありがたやと、もらえるものはもらい、つつがなくせいかつをおくらせてもらえばいいではないか。

 どうじょうけっこうけっこう。

 だというに。


 なにゆえ。

 なにゆえここまできをはってせいかつをせねばならない。

 じぶんってかわいそうじゃんあぺぺ~などかわいそうをうけいれててきとうにのらくらといきていけばいいではないか。


 なにゆえ。

 なにゆえここまでたにんのめをきにしてがんばっているのか。


 なにゆえに。

 なにゆえに。


(めんどくさいめんどくさいめんどくさい)




 この面倒臭さを変えられるものなら変えたい。

 の、だろう、か。

 変えたいか。

 本当に。

 この反骨心を本当に変えたのか失くしたいのか。


 『砂の国』のバカ野郎髪の毛大事にするのは結構だ存分にやれだけど髪の毛第一主義だと考える人間ばっかりだと思うな生まれつき髪の毛が生えてなくたってな『砂の国』の髪の毛第一主義に疑問を持ってそんなの知るかって髪の毛以外も見ろよって髪の毛をぞんざいに扱うかもしくは永久脱毛丸坊主にしてたぞ多分。

 こう吠える自分を失くしたいのか。

 けれど。


(めんどくさいめんどくさいめんどくさい)


 怒り続けるのも、疲れる。のに。


(あ~~~あ~~~あ~~~)


「    」


 じんわり込み上げる涙にも嫌気がさす。

 思い切り流して明日に笑えというのだろう。

 流そうが流すまいが、笑っている。











(2023.8.4)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る