第3話 初めてのサロン

 かくして、ハネーギル伯爵夫人のサロンの開催日となったわけだが。

(す、すごい……!)

 その部屋の壁には、たくさんの絵画が飾られていた。

 今回は、絵画をメインとした催しのようだ。

(一体何枚あるんだろう。どれもこれも女性を描いたものだな)

 よく見ると、同じ女性をモデルにしたものが多い。

(ふくよかでなめらかな白い肌の女性がいっぱい。このタッチが画家さんの特徴かな。それにしても額縁、高そうなのばかり。枚数もすごいし、この額縁だけでいくらするんだろう)


 そんなことを思いながら、一枚一枚絵を見ていた時だった。

「ようこそいらっしゃい、ミューリ嬢」

 背後から声をかけられ、慌てて振り返る。

(あ……!)

 立っていたのは、ふくよかでなめらかな白い肌の、柔和な笑みの女性だった。

(この絵のモデルさん!)

「私のサロンに来ていただけて嬉しいわ」

(私の? じゃあこの方が!)

 私は慌ててお辞儀をする。

「初めまして、ハネーギル夫人。お招きありがとうございます」

「うふふ、可愛らしい方ね」

(優しそうな人……)

 ふと彼女の後ろに目をやると、一人の青年が立っていた。立派な服は身に着けているが、どこかあか抜けない印象がある。

(従者かな? その割には高そうな仕立てだよね。女性ばかりの催しに珍しい)


「先ほどから随分と熱心に見ていらっしゃるのね、ミューリ嬢。絵画はお好き?」

「は、はい! えぇと……」


 ――招待を受けたら、そのお抱えの芸術家を褒めて褒めて褒めちぎれ。


 カイルの言葉を思い出す。そうだ、ここで『褒める』だ。

「とても素敵な絵ばかりで、思わず見入ってしまいました」

「まぁ、嬉しい」

「ここに描かれているのは、ハネーギル夫人でいらっしゃいますよね」

「えぇ、そうよ」

「どれも、ハネーギル夫人の美しい肌が見事に表現されていて、素敵だと思いました」

「あら、うふふ」

「やはりモデルがいいと、絵も素晴らしく仕上がるものですね」

「ふふ、ありがとう」

 心なしか、ハネーギル夫人の背後に立つ青年の顔が、微妙に曇った気がする。

(なんだろう?)

「ここに描かれた眼差しもとてもいいですね。ハネーギル夫人ご本人の魅力には到底及びませんが」

「……まぁ」

(ん?)

 ハネーギル夫人は口元に笑顔を浮かべたまま、少し困ったように首をかしげる。

(え? 何か間違った?)

「えぇと……」

 名誉挽回を狙い、私は他に褒めるところがないか探した。

「が、額縁、素敵ですね!」

「額縁……」

「はい、これがあってこそ絵が引き立っているように思えます。これを選ばれたハネーギル夫人のセンスは最高に素晴らしいと思います」

「うふふ」

 夫人は目を細め口元に手を添えて笑うと、側に立つ青年の腰に手を添え、私の前から立ち去ろうとした。

「あの……」

「ゆっくり楽しんでいらしてね、ミューリ嬢。行きましょう、モノース」

「はい、マダム」

(モノース?)

 どこかで記憶した名だ。モノース、モノース……。


 ――モノース・カッターの新作を披露いたします


(あーっ!!)

 夫人の側に付き添っていたあの青年こそが、これらの絵を描いた画家だったのだ。

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