8月8日 禁忌3

 いよいよ未来人が言ってた八月六日小さき少年がやってきた。しかし、天候は晴れ。戦況は駄目。いつもと変わらない一日としか思えない。朝六時。俺は子どもたちが起きる前に朝食を作っていた。ここは海が近いから、俺が蟹を捕まえてくる。その蟹の味噌を極端に薄めた味噌汁(もはやお吸い物の域)が、噂の朝食だ。これは自他とも認める美味さだ。みんな蟹のおかげだと言って、俺自身を褒めたことはない。だが、それで良いのだ。俺なんかより、買われてくれるこいつらの方がよほど立派だからだ。俺があのとき木の枝で二つ眼の眼を潰していれば死人はもっと少なく済んだのだ。俺は怖くて、何も……何も、できなかった。だから、疎開してきたこの子たちのことだけは守る。そう、決心している。だから、食べ物のありがたみを知ってもらうために食材となる生物に感謝させるように教育した。

 八月六日……朝早くから小さき少年は来ると言っていた。新しい疎開の子でも来るのだろうか。しかしそんな連絡はもらっていない。そのときだった。何かが光ったかと思うと、その後地震がきた。怯える子どもたちを急いで覆い、何も起きないことを願った。これが小さき少年なのだろうか。雷のような光と地震。小さくもなければ少年でもない。一体なんだったんだ……そう思っていると、後ろから投函の音が聴こえた。ハッと思い後ろを振り返り銃剣を構えたが、既に誰もいなかった。未来人だ。そうに違いない。今度は一体何を予言するつもりなんだ。そう思い手紙を開くと


 ──八月八日、米国の小さき少年に恐怖した赤い国が暴走し、世界の覇権争いに色々な国が使われる。一番目が、大日本帝国である──


「……ちっ! ふざけやがって」


 俺は紙を破り、土に埋めた。くだらない。赤い国って、間違いなく蘇連それんだよな……? それが攻め入るだと? ふざけるな。こっちは独国ドイツと違って約束破って侵攻したりなどしていない。いくら覇権が欲しくても、その約束を破ればどうなることか、わかるはずだ。未来人め、こうやって俺に精神的苦痛を与えて、この子たちにまで悪影響を及ぼすつもりなんだな。許せない。俺は今この瞬間心に誓った。この子たちとその家族のために、この国が戦い続ける限りは俺も尽力する。今日は子どもにウケの良い肉肉しい食べ物を見つけてやる。子どもなら持ってこられないような上物じょうものだ。独り地を這うへびなんか良いんじゃないだろうか。蟲と比べたらはるかに肉がある。それに、うじゃうじゃいる。しかし、奴らは首だけになっても襲ってくる。調理するときは気をつけないとな。

 ……こうして、未来人の言っていた八月八日がやってきた。

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