8月6日 禁忌

 本当に不気味な話なのですが、毎年この日は必ずあの夢を見ます。お盆が近いのが関係しているのか、日本人ならこの日をあの日と捉える今日、亡くなられた方の御霊が見せる夢なのかもしれません。写真や動画では何度も見たのに、夢の中の自分はいつも初めてを見ることになります。しかし、見るだけで痛みはない。現実なら痛くてしょうがないはずなのに、夢では全く痛くない。人の心を失ったような気がして、とても悲しい気持ちになります。今回は、できるだけソレをぼかして話しますが、話す上でどうしてもださなくならねばなってしまぅた場合はをだすかもしれません。ご了承ください。あとは、9日までの続き物にしたいので一話一話短めになると思いますが、それもお許しください。


 一九四五年八月五日。今日も相変わらず蟲図鑑を見ながらどうすれば食べられるのかを、近所の子どもたちと話し合っていた。子どもは元気だ。跳ね回ったり、飛び回ったりする蟲をあっという間に捕らえてしまう。俺なんか空腹でロクに動けないというのに。俺はたまたま徴兵をまぬかれている運の良いやつだ。嬉しいような悲しいような、そんな気分だ。しかし嬉しさがまさるだろうか。なんせこうやって子どもたちとキッカケは最悪とは言え話すことができるのだから。子どもが好きなわけではないが、どうせ話すなら元気がある人間の方がポジティブ……活気的でとても良い。ふう危ない。口に出してたらどうなっていたことか。ともかく、子どもたちの持ってきた蟲を見ながら調理方法を考える。と言っても、俺は答えが書いてある本(国が配ったらしい。おふくろが気持ち悪いから嫌だと俺にくれた)を持っているから結局はその意見が通るんだけどな。でも、子どもたちの政治ごっこは見ていて癒される。大人の政治ごっこは騒いだりしてて醜いことこの上ないからな。子どもの方がよっぽど大人だ。


小太しょうた兄ちゃん、雀蜂すずめばちは毒を取らないといけないよね? 刺されたら死ぬんだから、食べるのも良くないと思うんだ」

「でもどうやって取るのよ。ピンセットに毒がついちゃったら、これだって高いのよ、毒なんかついたら大問題」

「えーでも雀蜂は美味いらしいじゃん。小太兄ちゃんはどう思うかな」

「簡単なことさ。あいつらはお尻に力を込めて毒針を出してるんだ。だから、腹部をギュッと押してやれば毒針も出てくる。怖いなら俺が素手でやる」

「小太兄さん、無理はしないでね」

「なぁに、所詮針だ。横っちょは痛くなんかない。ほれ、出てきただろ。これを……フン! フンヌゥゥゥゥ」


 ズルッ。俺は毒針を毒のうごと引き抜き、どっかへそのまま投げ捨てた。誰かに刺さることはなかろう。森の方へ投げたから。


「さて、あとは頭部と足と羽をむしり取るんだ。胸部が一番美味いからな。腹部は……食っても食わなくても良い。俺はこのご時世贅沢言ってられないから食うけどな」

「わぁー! 小太兄さん、すごいわ! みんなみんな、食べよー」

「まだ完成してないぞ。取らないといけない部位を取って、取って……串刺しにして炙るとしよう」

「わぁ〜……お、美味しそう……」


 この笑顔、眩しいが見つめていたい。こんなことにならなければ、もっと良い物を食わせてやれたんだがな。でも、そうじゃなけりゃ疎開先である俺の家にこの子たちは来なかったから、なんとも言えないな。雀蜂を食べ終わったら、昼寝を始めることにした。子どもたちが眠った後は敵軍が来ないか銃剣を持って警戒をする。しかし、一人の子どもが昼寝から覚めてばんを代わってくれると言うので、渋々門をキツく閉めてから眠りについた。夜は、コオロギでも食べるとするか。

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