9.執事とメイドたち

 メンマと名乗った猫耳メイドの耳はどうやら本物のようで、真琴に揉まれて相当くすぐったかったようだ。それよりも何のためにここにいたのか、小村家に仕えるとはどういうことなのか聞いてみた。


「えっと、それはそのままの意味ですにゃ。

 メイドですから皆様のお世話を誠心誠意やらせていただきます!

 メンマはメイクやベッドメイキングが得意なのにゃ。

 それぞれの部屋にあと五人いますので全員起こしてあげてくださいますかにゃ?」


「起こすって、今までずっと寝てたの?

 もしかして爺ちゃんに眠らされたとかそういうこと?」


「眠らされたというか…… ダイキ様は創造主なのですにゃ。

 私たちを創造された後、その日が来るまで眠っているようにと命じられました。

 それぞれのお役目もその時に仰せつかっておりますにゃ」


「ということは……? どういうこと?

 ドーンさんわかるかな? ちょっと僕の理解を超えてるんだけど……」


「ダイキがここまでやっていたとはねぇ。

 要はこの子を魔術で産み出したってことよ。

 あのオートバイもそうだけど、産み出せるものに制限はないの。

 だって制限があったらこの世に存在できないものってことになるからね。

 だたしそれをどうイメージできるかが大切で、想像できないものは作れないってわけ。

 もちろん相応の魔力量と技術も必要なのよ?」


「はあ、わかりましたけど理解は出来そうにありません……

 とにかく凄いことだってことはわかりましたけど……」


「お兄ちゃんはいちいち気にしすぎなんだよ。

 今ここにメンマちゃんがいるんだから仲良くすればいいだけじゃない?

 ね、そうでしょ?」


「はい、そう思っていただけるとありがたいですにゃ。

 ぜひお役に立てるようお側に置いて下さい。

 護符を解くのは小村家の方しかできませんし、一生忠義を尽くすことを誓いますにゃ!」


 メンマと名乗ったネコの獣人は力強く自らの胸を叩いた。やけに鼻息が荒いのは爺ちゃんの趣味か? いったいどういうキャラ付なんだろうか。


「難しいことはわからないけどマコと仲良くしてくれたら嬉しいな。

 メイクとかもやってくれるならもっともっと嬉しいし!」


「お任せください、メイクとベッドメイキングは完璧にこなして見せますにゃ!

 他のことはほぼ出来ませんが……」


 微妙に不安な発言もあったが、この広い屋敷で身の回りの面倒を見てくれる人がいるのは助かる。それに真琴にとっても女手があった方がいいはずだ。その真琴はと言うと、やはり何のためらいもなく次々に護符と言う御札を剥がしていった。


「ここも猫ちゃん、こっちは狐だー

 隣にもう一つ狐ちゃん、それとうさぎさんもいたー

 最後はなんだろ、角だから牛?」


「角生やしたやつが言うセリフじゃなくね?

 きっと同じ魔人ってやつじゃないかな」


 僕の予想は当たっており、最後の部屋からはシルバーグレイをオールバックになでつけた、イケオジな執事風の魔人が現れた。なんとなく爺ちゃんの面影があるような気もするが、転生したと言っていたのでそんなことはないだろう。


「ご主人様、わたくしはハンチャと申します。

 これからずっとお二人に誠心誠意尽くしたく存じます。

 担当分野は戦闘と索敵、防犯や人員管理、その他もろもろとなっております。

 使用人が見当たらない時には私にお声掛け下されば探し出して指示致します」


「なるほど、みんなのリーダーみたいな立場なのかな。

 頼りにしているからよろしくお願いしますね。

 さっそくで申し訳ないけど、この近所に危険がないか教えてくれますか?」


「かしこまりました、といいたいところですが、当屋敷は完全な結界に護られております。

 ゆえに敷地内にいる限りは安全が確保されると言うわけです。

 お出かけの際はチャーシをお連れ下さい」


「なるほど、結界なんてものがあったのか。

 ひとまずは安心できた、ありがとうございます。

 えっとチャーシっていうのは――」


「メンマが紹介していきますにゃ!

 隣のチビネコがナル、ベッドメイキングと部屋の片づけくらいしかできないメイドにゃ。

 一人目の白狐がチャーシ、戦闘特化型で怖いにゃ。

 その向こうの狐はルースーで洗濯と園芸が得意にゃ。

 最後のウサギはマーボ、お料理と掃除が出来る役立たずなのにゃー」


「失礼な! マーボは役立たずなんかじゃありませんよ!

 ただ…… 普段は料理も掃除も必要ないだけなのです!

 そんなこと言うならルースーだって必要のない洗濯と園芸しかできないのですよ!?」


「ルースーをバカにしているのですか?

 洗濯はともかく、お花は心に安らぎをもたらしてくれますよ?

 ダイキ様だってそう思ってルースーを作ってくれたに違いございません」


「結局メイドの中で一番役に立つのはチャーシってことなのよ。

 チャーシがいればどこへ行っても安心安全なんだもの」


「ふっふっふ、ナルを忘れないでほしいのだわ。

 こんなにゃあにゃあうるさい長毛種よりもよほど優秀なのだわ。

 メンマがマコ様にお仕えするならナルは旦那様にお仕えするのだわ」


「違うって、僕は旦那じゃなくて兄貴だからね?

 名前は雷人、みんな、これからよろしくお願いします。

 別にどっち担当とかいいから真琴と仲良くしてあげてくれ」


 なんだかそれぞれの間にライバル意識のような空気が流れている気がするが、あまり深くは考えずに出来ることをやってもらおう。それぞれの名前がラーメン屋由来で爺ちゃんの安直さがよくわかるが、そんなことは当人に伝える必要もない。僕は賑やかになった屋敷が急に居心地良くなったように感じていた。

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