弱小ダンジョン配信者、勉強する(二日目)
「ふぁあ、今日はさむいなぁ。また講義やってるかな?」
次の日のこと、海斗は思いのほか講義が面白かったのでアリサを誘ってまた行こうかと考えていた。
『私今日は装備を整えたいから。ゴメンね』
『おk』
あの、『
「じゃあ一人で行くか。カイルストーン教授の講義か実技系の講義があったら参加したいな」
軽く装備を身に付けて訓練場へ向かう、ギルドへの道を自転車で走っていると右手に学校の校舎が見えてきた。自転車を校庭に停めておくと前回と同じく教室に向かった。
「こんにちは、講義を受けに来た方ですね。ギルドカードを出して紙にお名前と受ける講座を書き込んでください」
今日の講義は「異世界の古代史:講師酒井シャミィ」「魔導機械論:講師ゼブライデン」「ダンジョン・クライシスから今日に至るまでの社会の分析:講師カカリム=カリム」、うーんどれも微妙だな。若干萎えつつもどれを受講しようかと悩んでいると受付の女性に声をかけられた。
「あの、もし差支えなければよろしいでしょうか。受講したい講義が特別ないのでしたらこちらの講義などいかがでしょうか」
受付の女性は申し訳なさそうにこちらを伺いながら、「ダンジョン・クライシスから今日に至るまでの社会の分析」を指さしていた。別に希望は無いが急にどうしたのだろう。
「別に問題ないですけど、定員とかですか?」
他二つの講義が定員いっぱいで受けられないのだろうか。しかし、名簿を見ると今日は15人ほどしか受講者がいないのでそれは無いだろう。
「いえいえっ! そんなことは無いのですが……ダメでしょうか」
「はぁ、別に大丈夫ですけど」
そんな捨てられた子犬のような顔をされては断れないだろう、名簿に登録すると1階の奥の教室に案内された。なんで一緒なのだろうかと疑問に思っていると、受付の女性が開き戸を開けた瞬間何かが彼女に猛烈な速さで突っ込んできた。
「ヴぇッッ!!!」
「カリムさん危ないですよ、受講者さんが来られていますよ?」
「えっっ! まっ、まって! 準備してくるーーー!」
少女はそのまま俺たちをすり抜けるとどこかへ走っていった、なんか見覚えがあるような……。とりあえず教室に入って最前列の席に座る、なぜか受付の女性は教室の後ろに立っている。それにしても俺以外誰も受講者がいないのはどうなっているのか。
「お待たせ~、今日は天気がいいね~。って、昨日の! わわわわ、ギャッッ!!」
教室に入ってきたかと思うと勝手にビックリして勝手にぶっ倒れていた。そういや、昨日のトイレで泣いてた子じゃんなんでまたいるんだろう。
「カリムさん!? 大丈夫?」
「ぅううう……いたい。ありがと」
受付の女性が少女を助け起こしている、講義を受けに来たという事はあの子も冒険者なのだろうか。というか、なんかやけに高いハイヒール履いているな、20センチ以上ありそうだがあんなもん履いていたらそりゃあ転ぶだろう。
「ごほんっ! えー、ではでは『ダンジョン・クライシスから今日に至るまでの社会の分析』の講義を始めますっ」
この子は何を言っているのだろうか、そういえばさっきカリムさんと呼ばれていたような。この講義の講師の名前はカカリム=カリムだったがまさか……。
「えっとね、まず『ダンジョン・クライシス』がね」
「カリムさん! 先に自己紹介しなきゃダメよ」
「あっ! そうだった。私の名前はカカリム=カリム、カリムの里の族長テルポッサの娘にして偉大なる精霊の御子なのだ!」
「マジか」
「マジだ! 昨日はよくも子供扱いしたなー? アタシは今年26のしっかり大人なのだ!」
「めっちゃ泣いてたけど」
「わーーー! ばらすな!」
まさかこんな小さな子供が講師だとは思わなかった、本人が言うには大人らしいが言動と行動があまりにも小学生だ。今だって手をブンブン振り回して怒っているがまるで駄々をこねているようにしか見えない。
「ふん! まあ昨日の事はトイレに免じて水に流してやろう。アタシは昔から精霊術がうまくて里の子供たちにも教えてあげてたのだ。隣の家のアチャリムさんはいつもアタシのことを」
「カリムさん、そろそろ講義はじめましょう?」
「あっ、志桜里(しおり)ちゃ……じゃなくて受付さんありがとう!」
受付の女性、志桜里さんという名前らしいが彼女とカリムの掛け合いを聞いているとまるでコントみたいでちょっと面白いな。本当に講義が出来るのか怪しいが退屈はしなそうだ。
「よ~し! それでは講義を始めるぞ!!!」
***
(やべえ、めちゃくちゃ退屈だ)
「米国ではダンジョンに対してドッカーーンしたのだ。でも、ドッカーーンしても壊れなかったからいっぱい人を送ったらモンスターがいっぱい居ることが分かったんだよ! はい、そこの君! なんでドッカンしても壊れなかったと思う?」
「へ? あーなんでしょうね? 硬かったとか」
「違うんだなぁ、ふんふん。中々これは難しいよ、ヒントはねぇ……ドッカンは水に弱かったのだ!」
徹頭徹尾この調子である、内容自体はよく理解すれば面白いのかもしれないが絶望的に分かりにくいのだ。ドッカンてなんだよ、まあ爆薬か何かの事だと思うけどいちいち翻訳しないといけないので理解が阻害されて頭に入ってこない。
「どうかな~分かるかな~。これはね、ダンジョンの魔力が水の性質に系統していたせいでドッカンがダメになっていたんだよ! 水に濡れたくらいじゃドッカンはダメにならない、そう言いたいんだろう……ふふふ、考えが浅いよ!」
やばい、瞼が開かなくなってきた。今何の話をしているんだっけ、脳内に霞がかかって頭が全然回らないぞ。浅い? 何が浅いんだ、ダンジョンの話だっけ?
「ちょっとっっ!!! 寝ちゃダメ! 先生の授業を聞くのだ!」
いやいや先生、俺寝てないですよ。ただ目を閉じて机に突っ伏して何も考えてないだけです。その証拠にほら、今頑張って起きようとしてるじゃないですか。あれ、なんかチョークを振りかぶって……投げた!! 外れた!! ズッコケた!!
「うっぅぅぅっぅ……。ひどいよ、なんでみんなアタシの講義聞いてくれないの。ひっぐ、里のみんなはアタシの事褒めてくれたのに……ひっぐ。ずびっ……みんなアタシが身長低いからバカにするんだ! 大人なのに……ひっぐ」
「いや、それはあんまり関係ないのでは」
「うううううぅぅぅぅーーーーー!!! えーーーーーん!!!! もうおうち帰るもん!! もう講義しないもん!!!」
「カリムちゃん! ダメよ! せっかく受講者さんが来てくれたのに、また追い返したらクビにされちゃうのよ!」
「ひっぐ……クビはイヤだよーー! 志桜里ちゃん助けてーー!」
なんかめちゃくちゃ申し訳ない気持ちになってきた。確かに退屈で眠くなるような講義だったけど、こんな子供を泣かせてしまうなんて俺は何をやっているんだ。いや、そういえば大人だったなこの人、まぁいいか。
「すいませんでしたカリム先生。これからは真面目に先生の話を聞くので、講義を続けていただけませんか」
立ち上がってしっかりと頭を下げる。生徒と講師、その関係性を強調することで彼女の尊厳を回復させるのだ。ちらりとカリムの方を伺うと、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で放心状態になっていた。鳩が豆鉄砲を食らったようにしばらく海斗を見つめていたが、志桜里さんに助けてもらって立ち上がるとヨタヨタとこちらに歩いてきた。
「先生?」
「……えっ、えい!」
へにょ、と小さな手で頭を下げている海斗のおでこにチョップした。
「居眠りの罰ですっ! 反省したらちゃんと話を聞くように!」
どうやら機嫌は戻ってくれたようだ。志桜里さんにしがみ付いて教壇に戻る姿に威厳などかけらもないが、元気に話している姿だけで十分だ。
「はいっ! それでは講義の続きを……わわわわっ!!! 倒れるっ!」
またバランスを崩して志桜里さんに助けを求めている、なんというか本当にドジだなと苦笑してしまう。
「……いや、揺れている?」
わずかだが、確かに揺れている。何か嫌な予感がする、これはあの時とおなじ――。
「キョオオオオ―――ンッッッ!!!!」
「——クソっ、頭がっ」
遠吠えにも似た音の濁流に体の自由が奪われる。今のは校庭の方から聞こえてきたぞ、ガンガンと頭痛のする頭を押さえながら窓へ走りよると驚愕の光景が広がっていた。
「嘘だろ、なんでダンジョンからモンスターが出てるんだ!」
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