弱小ダンジョン配信者、入院する
キュクロプスとの死闘から2週間が経っていた。あの後治療院に連れていかれた俺はその場で強制入院をさせられちまった。ダンジョンに残したドロップアイテムや例のブロードソードを回収したかったが、アドレナリンでおかしくなっているだけで今にも死んでもおかしくないと言われてしまった。処置を受けている間は平気だったがその夜は激痛で寝られなかったね、いやマジで一睡もできなかった。骨が肺にぶっ刺さっていたらしく、よくわからん針を胸に大量に刺されたのは最悪だったね。
「厳しい戦いだった……、一進一退の攻防が繰り返され戦いの余波で周囲の全ては吹き飛んだ。誰もいなくなった階層で俺と奴、これで最後の一騎打ちだ! 奴が拳を構えて振りぬくドカッ! 俺がそれをヒラリと躱してジュバッ!! 懐に入り込んでジュババッッ!!ドカドカドカッ!! 最期は俺があいつの胴体を大・切・断ッッ!!! ジョババババッババ!!!」
「…………」
「俺の勝ちだ……。最後にあいつはこう言った『我が最強の
「はぁ……」
・アリサ姫呆れてるじゃん
・何回目だこの話
・38回目
・三時間ぶっ続けで話してるってマ?
・ちょっとずつ内容が変わってるの草
・興奮すると語彙がなくなってるぞ
・呆れてる姫もイイ!
・¥120 もう一回はなして
・おいやめろ
・姫が憤死するぞ
・お前マジでふざけんな
「ふむ、ではもう一度話そうか。あれは、俺がダンジョンに眠るとされる至高の財宝を見つけるために―――」
「はぁ……」
アリサも怪我が思ったより重症だったのか入院することになった。どうしてアリサと俺が同じ病室の隣同士かというと、「ダンジョン・クライシス」後の地球では異世界の民が大量に転移してきたことで、やれこの種族とは一緒にいたくないだの、やれあいつは不気味だのとそういった問題が頻発したらしい。こうした問題を解決するために新世界連合は、人型、獣型、水棲型に分類したそうだ。根本的な解決になっているのか怪しいし、ちょっと大雑把すぎる気もするが、少しくらい我慢しろということだろう。
「そういや元はレベル14だったから、18レベルも上がったのか。確かに強かったけどここまでレベルアップするとはなぁ」
・めちゃくちゃ接戦だったからな
・一回の戦闘でレベルが倍以上になるのはなかなか無いね
・同じモンスターを倒しても条件によってはかなり経験値量が変わるらしい
・ユニークスキルで経験値増やしただろ
・経験値ボーナスの条件踏んだか?
「やっぱり異常だよな、経験値シミュレーターに打ち込んでみたんだが25レベルって出たんだよ。あと、ユニークスキルだっけ? なんかゲットしてたんだけどお前ら何か知ってるか」
ギルドカードを取り出してステータス欄にスマホを向ける。そこには2週間前にはなかった「ユニークスキル【欲しいものリスト】」と書かれていた。
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名前:弩門海斗 レベル:32 next level 562
ステータス 基礎スキル 魔法
筋力:85 剣術:中級 トーチライト:初級
敏捷:80 隠密行動:初級 ファイアスパークス:初級
耐久:138 体術(逃):初級
魔力:43 回避:初級
技能:98 気絶耐性:初級
感覚:67
幸運:45
ユニークスキル
【欲しいものリスト】
?????の状況下でのみ発動。配信中に????が????を超えることで使用者に特定のアイテムが届けられる。
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・マジでユニークスキル持ってるじゃん!
・スキル説明欄読めない
・基礎スキルも増えてるな
・説明欄なんて書いてあるんだこれ
・文字なのかこれ?
・特定のアイテムってブロードソードのことだよな
俺が瀕死の重傷から立ち上がった時、目の前にあのブロードソードが突き刺さっていた。俺もアリサも心当たりがなかったし、近くに誰かが潜んでいたとも思えない。おそらくこのスキルによって届けられたのだろう。ブロードソードがなぜ出現したのかについては分かったが謎は依然残っている。
肝心の発動条件が分からないのだ。魔力を消費した感覚はなかったし、まったく意識せず発動したことから受動型(パッシブ)スキルだろう。文章から推測するに発動条件にはダンジョン配信が影響しているらしいが、詳しいところはさっぱりである。
「なぁ、アリサはユニークスキルについて何か知らないか?」
「ユニークスキル、ね。悪いけど私も分からないわ。そもそもユニークスキルって取得できる人が少ないらしいし情報も少ないんでしょうね」
せっかく希少なスキルをゲット出来たってのに使い方が分からないんじゃ宝の持ち腐れだ。何度もダンジョンに潜って法則を見つけ出すしかないだろうか。
「また配信ですか~、興奮しすぎないでくださいね~」
「もちろんです、セルディさんはユニークスキルについて何か知りませんか?」
・セルディさんキタコレ!!!
・うおおおおおおおおお!!!こっち向いて!!!
・俺も入院したいなー
・今日も笑顔がかわいいぜ
セルディさんはこの治療院を経営する凄腕治療士である。羊獣人(シープスカッチ)である彼女はふわふわと白く柔らかな癖毛が特徴的で、彼女の温和で思慮深い性格にとても似合っていた。突然の訪問者にも嫌な顔一つすることなく受け入れてくれた彼女は地母神にも等しい慈愛に満ちた人格者である。幅広い知識を有する彼女ならなにか知っているのではないかと聞いてみる。
「う~ん、ごめんなさい。私もユニークスキルに関する知識はないの。アカデミーでも魔導薬学と臨床治癒魔術が専攻だったから、スキルの鑑定とかは専門外だわ」
セルディさんでも知らないのか、これは本格的に迷宮入りしそうだ。
「そうね~、ユニークスキルについては分からないけど。ギルドの講習を受けてみたらどうかしら?」
「ギルドの講習ですか、確かギルドカードを受け取る前に受講しましたが」
「うんうん、アリサさんが言っているのはダンジョンの基礎知識講座の事ね。あまり知られていないのだけど、ギルドでは冒険者に対して定期的に講義を開いているの。ギルドカードを持っていれば授業料は一部免除されるし、有名な冒険者の方が講師になることもあるから有意義なものになると思うわ。カイトくんのスキルについても何か分かるかもしれないしね」
うーむ、正直勉強は苦手なのだが。ダンジョンについて熟知しているであろう講師ならユニークスキルについても何か知っているかもしれないが、あまり乗り気にはなれない。というか、そんな講習あったか? ギルドで手続きする時に大部屋に集められてなんか言っていたような気がするが、居眠りしてたから憶えていないぞ。
「それにね? カイトくんもアリサさんも一気にレベルアップしたでしょう。こういう状態で無闇にダンジョンでの戦闘なんてしちゃうと、ステータスや感覚に頼った戦い方になってしまうわ。実戦での理解も大切だけど、様々な知識を取り入れて柔軟な発想を出来るようにならないと危険よ」
ぐうの音も出ない。かくいう海斗も自身の知識不足に関しては薄々感じていた。元々D-tubeの配信を見てノリでダンジョン配信を始めたのでwikiで仕入れた程度の知識しか持っていないのだ。
「実技の訓練もあるらしいしそんなに固くならなくていいのよ~」
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