底辺ダンジョン配信者、帰還する

「はっ、はは、終わった……」


 緊張の糸が切れたことで海斗も地面に倒れこんでしまった。もう立ち上がれない、このまま寝てしまいたい。あのアリサを守るためとは言え柄にもなく頑張りすぎた。


「カイトっ!! 血がっ、止血しないと! ポーションがあるから飲んで!」


 あわただしく走り寄ってきたと思ったら、泣き笑いのような顔でバックパックをひっくり返して大騒ぎだ。まったく、そんなに慌てるなよ。


「ポーションは……、煙幕を作るのに使っただろ? 別に俺は死んでも生き返れるんだから、きにすんな」

「うるさい!!! 生き返れるとか生き返れないと関係ないの! こんなになるまで私のため頑張ってくれたのに……生きて帰るんでしょ!!!」


 アリサはスカートを引きちぎると傷口を強く縛って簡易の止血を施してくれた。


「いってぇ、もうちょっと緩めてくれないか? 骨にひびが入ってるのかすげぇ痛いんだよな」

「骨なんか何本折れたって死なないわよ! 私は回復魔法なんて使えないんだから早くいくわよ!」


 アリサの肩を借りることでなんとか歩くことが出来た。どうせならお姫様抱っこでもしてカッコつけたかったが流石にこの体では無理だった。


「———おっ、アリサ。俺のスマホ取ってくれないか」

「あとで取りに来ればいいでしょ、今はさっさと地上に帰るのが先」

「いや、今じゃないとダメなんだ。それにそんなに邪魔にはならないだろ? 頼む!」

「……ほら」

「サンクス!!!」


・やったな! おめでとう

・うわグロ、でもスゲー

・レベル差20で勝ってるの初めて見た

・8888888888888888888

・スゲーよカイト、マジでスゲー

・普通にファンになったわ

・うおおおおおおおおおーーーーー!!!!!!勝利!!!!!!

・熱いバトルをありがとう!

・¥10,000 マジで感動した、お前がナンバーワンだ

・絶対負けると思った過去の俺をぶん殴ってやりたい。おめでとう!

・¥5,000 俺のアイデアが役に立ったみたいで良かった

・カイトの諦めない姿に感動した!ありがとう!

・みんなずっと応援してたぞ、お前の魅力やで

・姫様を救えてよかったな勇者くん

・¥50,000 治療費の足しにしてくれー

・ふつーに感動した!映画化不可避

・古参リスナーワイ、鼻が高い

・諦めなければなんとかなったな、良いもん見れたぜありがとう!


 たくさんのコメントが目まぐるしく流れている、スパチャもたくさん来ているのに早すぎて読めない。うん、ちょっと視界がぼやけて上手くよめないな。


「……おまえら、ありがとな。ここまで頑張れたのはお前らのおかげだよ。俺は見栄っ張りで臆病で自分勝手で、そんなんだからお前らがけしかけてくれなかったらこんなに頑張れなかったよ」


 そういえばこのダンジョンに来たのも、掲示板で煽られたのが原因だったな。あそこで冷静になっていたらアリサを救う事は出来ずに、ネットニュースで彼女の死を知ることになっただろう。


「でも、カイトが助けてくれたのは事実でしょ。だから卑下しないの」

「ふっふっふ、俺にかかればこんなもんよ!」

「はいはい」


 痛みを誤魔化すように軽口を叩く、彼女だって怪我を負っている筈なのに悟らせないのは流石と言わざるを得ない。しっかし、毎日ダンジョンの事ばかり考えていたのに、こんなにも地上が恋しくなるとはね。


「あと少し、この階段を昇ったら第一階層よ」

「……なぁ、諦めるなよ」


 ダンジョン出口まで十数メートル、ここを出たらアリサにはもう会えないような気がした。


「諦めなきゃどうにでもなったろ? 確かにどうしようもないこともあるけどお前ならきっとなんとかなるよ」

「あの時もそんなこと言ってたね。ほんと無責任」


 あの時は、正直パニックでなんでもいいから慰めようとして言った気がする。無責任でも救えたんだ、ならそれでいいじゃないか。


「どうしようもなくなったら俺を頼れ、俺は確かにオーディールみたいに強くはないけどリスナーの前だったらなんでもしてやるぜ」

「サイテー、配信外では助けてくれないのね」


 頬を膨らませて怒ってみせるがひたすらにかわいいだけだ。鼻の下が伸びそうになるのを抑えて話を続ける。


「当然だろ? 俺たちは配信者なんだから。いつでもどこでもコラボ依頼お待ちしてるぜ」

「……うん」


 今日は本当に疲れた、初心者向けダンジョンを攻略しようとしたらお姫さまを助けるために死に物狂いで戦うことになるなんてな。

 地上の光を浴びて、出口への道を進んでいく。あのおっさんめちゃくちゃ驚くだろうな。

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