第3話

 何年ぶりの実家だろう。

 玄関に立ち、鍵を開け扉を開ける。

「ただいま」

 たぶん、返事はない。

 反応がないのがあたりまえだから、二階の部屋にそのまま向かう。

「あれ、帰ってきたの」

 母親がリビングから出てきた。

 階段をいくつかあがっていた私は、そこからそのまま、「たまにはね」と、返してみる。

「きみちゃんの部屋ね。いま、物置になってる。ベッドはそのままだけど」

「あー……まあ、泊まらないからいいよ」

 階段をあがって、部屋のドアノブに触れた瞬間、びりびりっと静電気が起きた。

 右手の一瞬のしびれをこらえながら、ドアを開ける。

 カーテンが閉まっていて、部屋は薄暗い。ベッド以外はいろんな棚が部屋にあり、雑然としている。

 ベッドに近づくと、そこに見覚えのないくまのぬいぐるみが置いてあるのに気づく。

 誰の?

 少し大きめのぬいぐるみは、壁にもたれかかり、私を見ている……ように見えた。

 部屋を出て、リビングの母親にぬいぐるみのことを訊ねる。

「あれは、きみちゃんのでしょ。忘れたの? お父さんにねだって買ってもらったんじゃなかった?」 

「それ、私じゃないよ……」

「え。じゃあ、さっちゃんの?」

 さっちゃん。年の離れた、私の妹。

 私が短大に入学する頃、家族で川遊びに行ったとき、川でなくなった。

「さっちゃんの、ダンボールにまとめていたはずなのにね」


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