第4話
あの日、私は一緒に出かけていない。
事故の連絡のあと実家に帰ると、憔悴ということばが、両親の様子にあてはまっていた。
どういう状況だったのか聞けやしない。
報道内容でだいたいのことはわかった。聞いちゃいけないと私はずっと思っている。
母親はそれからしばらく寝込んでいたようだった。
実家で母親のそばにいたほうがいいような気がしたけれど、父親から短大に行くように促され、それに従った。
そういうときにそばにいなかった負い目もあり、私は実家に帰れなくなっていた。
ぬいぐるみは、母親がしまい忘れただけだろう。
そう思って二階にあがろうとしたとき、
「さっちゃん、片付けてないのね」
母が、ぽつり、つぶやいた。
「いつもそうなのよ。片付けないのよ。おねえちゃんからも注意して。手伝ったらダメよ、くせになるんだから」
お母さん……?
さっちゃんがいると思ってるようだった。
夜になってその姿をみた父は、
「ときどき、こうなるんだ」
そう言って、話を合わせて会話していた。
「さっちゃんの手を離してしまったんだ。それが堪えてるみたいでね」
自分の家族なのに、そうじゃないような気がする。それくらい現実感のない光景があった。
さっちゃんのくまのぬいぐるみを、さっちゃんだと思って撫でているお母さん。
それに合わせて会話するお父さん。
ここにいられない。
いたくない。
アパートに帰ろうと、思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます