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「だから、目標の三機はどうなっとるんだ」

 警視庁本部庁舎。その会議室は、タイピング音と怒号に包まれていた。その原因は、八王子に出現した三機のロシア製補助駆動装甲――FRAの日本における名称である――にあった。

 1時間前に現れた三機のヴォエヴォーダは、八王子から都内中心部へ向かって進軍中。緊急配置した封鎖線は破られ、警察官は現着次第、機関銃の砲火に晒される。

 会議室内の全員に、ある事実が付きつけられていた。

 本件は、史上最悪のFRAテロ事案になる。市街地に侵入した三機は、躊躇することなく機関銃を発砲。既に警察官12人を含めた、38人の死亡が確認されている。国産の補助駆動装甲を運用する陸自・空自に、治安出動が打診されているという噂もあった。

 府中市における封鎖作戦は失敗。数分前に調布市に侵入。破壊活動のペースにもよるが、予測進路上にある世田谷が無傷であるのは絶望的。

「これはなんと」

 室内に、良く通る、しかし間延びした声が響いた。捜査員たちが一斉に声の主を見る。

 黒いトレンチコートを羽織った、長身の男。官僚バッジが左胸に輝いている。名前は卯月春斗うずきはると。外務省の人間である。

「......特捜課か」

「いかにも」

 外務省特捜課。自衛隊に続き補助駆動装甲を採用した、対テロ戦を目的に創設された実力部隊。外務省内では当然ながら、全省庁からイレギュラー扱いされている。任務は密輸兵器の捜査から、入国の情報を得たテロリストのまで多岐に渡る。

「我々にも参加命令が下りましたので、現時刻を以て参加させていただきます」

「これは警察、あっても自衛隊の仕事だ。あんたらが出る幕は......」

 若い捜査員が食って掛かる。

「治安出動の打診はまだのようですね。我々であれば、警視庁からの命令......いえ、要請だけで制圧が可能です」

「て、展開に時間がかかるだろう!」

「既に一機を搭載したトレーラーを、世田谷区内に急行させてあります。装着者も同様です」

「......」

「どうしますか。今すぐであれば、世田谷区の最低限の被害だけで制圧できます」

「待て、要請の許可を取得するには時間がかかる」

 次の瞬間、一斉に捜査員たちから不満が噴出した。

「そもそも外務省ごときが戦えるのか」

「そうだ、陸自の戦力じゃないと信用できん。外務省が一機だけなど」

「反対だ。どうせ被害を増やすに決まっている」

「相手にするな、あんな奴の言うことなど......」

「お言葉ですが」

 卯月が声を張る。

「我が方の装着者は、海外のPMSCで研修を受けています。実戦慣れに時間はかかりません」

「なっ......!」

「早く決めてください。要請を出すのか、出さないのか。捜査権は皆様にあります」

「まあ落ち着け。私の責任で、要請に関して上に掛け合う。外務省のあなたは、それまで待機だ」

「了解です」

 会議室の奥に座る責任者に対し、卯月は深く頭を下げる。


 午前11時50分。警視庁から外務省特捜課に、緊急出動が要請された。

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