On your feet.
1
東京都八王子市。閑古鳥の鳴くような地域に、一件の廃工場がある。さび付いた看板は半分以上が脱落し、シャッターは開きそうにない――人間の力では。
ミシミシと音を立て、汚れ切ったシャッターが無理矢理開かれる。その行動の主は、ロシア製第二世代FRAのヴォエヴォーダを着用していた。カーキ色の迷彩柄。背面では、同じくロシア製のKord機関銃が鈍く輝いている。
シャッターをこじ開けた機に続き、同じヴォエヴォーダが二機現れる。
〈各位、任務は明らかか〉
女の英語が機体の外部スピーカーから流れる。他の二機は、機体を頷かせて肯定の意を示した。
〈これより首都進攻作戦を開始する。各機続け〉
三機はKordを両腕に構え、走り出す。
「なんだあれ」
「こっち来るぞ」
「FRAってやつ?映画?」
路上を歩く三人の男子高校生が、凄まじい走行音を立てて接近する巨人に気づく。カーキ色の三機。それを見た高校生の一人、背が低めで丸眼鏡をかけた少年が目を見開く。
「ヴォエヴォーダだ」
「は?」
「......Kib-81、ロシア製のFRAだよ。なんで日本に」
「ロシア?じゃあ戦争でも始まったのかよ」
「そんなことより、避けた方がいいんじゃね。こっちに気づいてなさそう......」
三人目が言ったとき、先頭の一機が両腕の得物を掲げた。威圧的なフォルムの12.7ミリ重機関銃である。眼鏡の高校生が再び口を開く。
「Kordだ!」
「はっ?」
次の瞬間、凄まじい発砲音が響き渡る。ロシア製特有の、重苦しいが乾いた銃声。十数発の曳光弾は高校生たちの頭上を駆け抜け、背後の家に着弾した。高校生たちの顔が硬直する。
そして彼らの真横を、三機が一瞬で駆け抜けていった。小さい住宅地に侵入すると速度を緩め、Kordを手当たり次第に乱射する。一件のベランダから入射した弾頭は、おそらく家の主の体を――
「け、警察!通報だ」
スポーツ刈りの高校生がスマートフォンを取り出す。
しかし眼鏡の高校生は、警察力では無理だろうと感じていた。なにせ日本警察は、計画こそあれど、FRAの採用は実現していないのだ。
(テロだぞ、これは)
自衛隊のFRA部隊が出動するだろうか。あるいはこの前雑誌で読んだ、外務省に新設された実力部隊が――。
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