第15話 工房活用法


 村に帰ると既にサウナが用意されていて、報告もそこそこに俺達はサウナへと向かうことになった。


 食事とか精霊の工房の話とかは穢れを落としてから、落ち着いてからゆっくりやった方が良いだろうと……驚く程の物凄い勢いで出迎えてくれたアーリヒから言われたからだ。


 村の皆に世話を任せた恵獣の親子を今後どうするのかという、村にとってはかなり重要な話し合いをする必要もあるだろうし、俺達が入っている間にアーリヒがそこら辺の準備をしてくれるとのことなので……その言葉に甘えることにして素直にサウナへと向かうことにした。


 一日かかると思っていた狩りは思っていた以上に、順調過ぎるほど順調に終わって今は昼過ぎ、こんなに早い時間からサウナに入れるというのは、なんだか申し訳なくなると同時に妙に楽しい気分になれるものでもあり……狩りの成功もあって気分を弾ませながらサウナへと向かった俺達は、ゆったりとサウナを楽しむことにした。

 何度もロウリュをして温度を上げて、体の芯から蒸し上げるような気分でじっくりと。


 熱気が身体中を包み込み汗が次々に流れ出て、どうしようもない程に体が熱くなっていって……そんな中ふと思い出すのは、前世のテレビで見たある情報、とあるサウナではお茶でロウリュをするとかで……それがまた凄く気持ち良いらしい。


 お茶、ほうじ茶、紅茶などなど……良い香りがサウナ中に広まり、熱気で荒くなった呼吸がそれらを吸い込み、口の中や鼻の中が香りでいっぱいになって……時間を忘れてサウナを楽しむことが出来るんだとか。


 お茶……お茶か、お茶を精霊の工房で作ってみるのはどうだろうか?


 お茶は健康に良いとも効くし、加工品になるだろうから精霊の工房で作ることも出来るはず……ああ、いや、健康どうこうを言うならそれよりも先に薬を手に入れるべきかな?


 薬……あまり複雑な科学的な加工が必要だとポイントも高くなってしまうし、副作用とかの問題もあるし、あんまり良くはない……かなぁ。


 それよりかは皆が知っている薬効のあるハーブにしたほうが良いかもしれない。


 以前出した食事用のハーブじゃなくて薬用のハーブと、それとお茶と……うん、中々喜んでもらえるに違いない。


 ……違いないのだけども、なんかこう……インパクトが薄いなぁ。


 善行ポイントを消費してまで手に入れるべき物なんだろうか? 何かもっと他の物でも良いような……。


 と、そんなことを考えているうちに砂時計の砂が落ちきって水風呂の時間となる。


 どうやら考え事のおかげで暑さを苦にすることなく耐えられたようだ、サウナを出たらいつも通りに湖に飛び込み、綺麗に晴れ渡った空を見上げながら体をしっかりと冷やして、それから瞑想部屋に向かい……椅子に腰掛け静かに心を落ち着け、何も考えないようにする。


 その方がしっかりととのえると思ったからで……すぐにととのいが始まり、もう一人の自分との対話がまた始まり……自分と記憶を共有しているらしいもう一人のヴィトーが瞼の裏の世界、暗くて暗いのに色があって、不思議な模様が次々現れる世界で語りかけてくる。


『前世では面白いサウナがあったみたいだね? 薬を入れた水でロウリュして、全身でその薬効を浴びるって感じのさ』


 ……もう一人のヴィトーもこっちの記憶を覗けるのか……まぁ同一人物なんだからそれはそうか。

 

 そして薬? そんなサウナあったか? ……ああ、そう言えば小さなテントやタルみたいのに入って生薬入りの湯気を全身で浴びるなんていうのがあったな、健康法の一種なんだとか。


 ん? 生薬? そうか、生薬も薬か……。


 自然で採れるものを乾燥させたりすり潰したりしたのが生薬で、これならポイントも低いか?


 ……そう言えば漢方薬って生薬を組み合わせたものだっけ? 干してすり潰して混ぜ合わせて……葛根湯とかが肩こりや風邪によく効くものだからよく飲んでいたなぁ。


 漢方薬なら恐らく低ポイントで作れるはずで……副作用はあるけども、そこまで重いものではなかったはず?


 ……しかしなぁ、正しい処方を知らずに漢方薬を扱っていうのも、怖いよなぁ……。


 薬で風邪を治してやりたいとなるとやっぱり子供だけど、そもそも漢方薬って子供に使って良いものなのか……?


『シェフィに聞いてみたら? 工房で正しい処方が書いてある本を作ってもらえますか? とかさ』


 更にヴィトーがそう言ってきて……そこでととのいが終わり、なんともすっきりした気分で目が覚める。


 それからすぐにユーラとサープに視線をやると……二人は俺の頭をじっと見てから、ジェスチャーでもって「ちょっとだけだな」と、そう伝えてくる。


 どうやら今回のととのいでも髪が黒くなったようだが、変化はほんのちょっとだけだったようだ。


 以前のととのいと何が違うのかは分からないが……ドラーが出てこないことや、加護に変化がないことを考えると、この程度の狩りでは駄目というか、経験値が足りない……ということなのだろう。


 もっとしっかり狩りをして己を鍛えて……もう一人の自分ともしっかり対話して、そうしてようやく以前のようなととのいの境地に到れるかもしれない。


 なんてことを考えてから俺は頭の上でゆったりとととのいの余韻にひたっているシェフィに声をかける。


「シェフィ、漢方薬の処方が書いてある本って工房で作れるものなの? もしそうならどのくらいのポイントがあったら作れる? それと今どのくらいの量のポイントが残っている?」


 俺のその声に隣の椅子に座っていたユーラとサープが何を言っているのだろうか? と首を傾げる中、シェフィはぷかりと浮かび、俺の目の前へとやってきて……それからどこか遠くを見て、何かと……向こうの世界の神様と会話しているような素振りを見せてから、ニッコリと微笑んで言葉を返してくる。


『そうだねー、まず今のポイントだけど、黒糖1個を1……いや10ポイントとすると、魔獣を狩ったことで1000ポイントになってるかな。

 ランヴィの親子を助けたことで2万ポイント追加で、合計2万1000ポイント。

 で、漢方薬の処方を書いた本は……全部は無理だけど風邪とかそういうよく使うものに限ってなら……そうだね、2万ポイントってところかな』


「げ、本だけで2万か……。

 ……いやいや、本で2万? 製紙が難しいってことか? それとも印刷……?

 いや、製本どうこうよりも、知識代って感じなのかな?」


『そうだねー……本当はもう少しお安くしてあげたいんだけど、中にはこっちに持ってこられちゃ困る知識もあるからね……そこら辺を抑制するためにどうしてもお高めになっちゃうんだよ。

 でも漢方薬っていうのはとっても良い着眼点だね! 一部が同じ植生の向こうのお薬! 自然の力! こっちに持ち込んでも全然問題ない知識だし……だから可能な限りお安くしてあげてるんだよ!』


「……お、お安めでそれなんだ、ちなみに葛根湯自体はどのくらいのポイントになるのかな?」


『えぇっとー……うん、大人一人が1回飲む分……一包分で、100ポイントかな』


「安!? い、いや、高いのか? 黒糖10個で薬一回分か……。うぅん、そう考えると本のヤバさが際立つなぁ」


 なんて会話をしてからもう一度考えてみる。


 漢方薬の処方についての本が2万ポイントで漢方薬は1回で100ポイント……それで風邪を早く治せたり防げたりするのなら悪くないのかもしれない。


 ポイントについてはまた稼げば良い訳だし……恵獣を見つけることは難しいかもだけど、魔獣はまだまだそこら中にいるはずで狩ることも難しくないだろうし……うん、アーリヒや村の大人達に相談して反応が悪くなければ、漢方薬を手に入れてみるのも良いかもしれない。


「何を話してんのかよく分かんなかっけどよ、薬が手に入るのならオレ様は大歓迎だぞ? 薬があれば婆ちゃん達も子供達も安心してくれるだろうしよ」


「自分も賛成ッスね、薬はいつお世話になるか分からないもんッスからねぇ、ヴィトーと精霊様がそれを作ってくれるってなら、狩りでもなんでも張り切って手伝うッスよ!」


 俺の思考が終わったのを見計らってユーラとサープがそう言ってくれて……俺は二人に向かって笑みを浮かべて頷いてから……早速皆の所に行って相談すべく、脱衣所へと足を向けるのだった。





――――あとがき


お読み頂きありがとうございました。


次回は恵獣やらこの続きやらになります


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