第11話 狩り

 翌日。


 朝食に海鮮たっぷりの塩スープを飲んで、精霊の工房で作った歯ブラシで歯を磨き、身支度を整え……猟銃をシェフィから受け取り、作ってもらった弾をポケットに入れ、猟銃を毛皮で包んでから抱えて、シェフィを頭に乗せて広場へと向かう。


 すると身支度を整えたユーラとサープが大きな背負鞄を背負い、太い木材にがっしりとした鉄製の穂先を固定した槍を抱えながら待っていて……俺が合流すると二人はにこやかな笑みを浮かべながら狩り場へと向かって歩きだす。


「昨晩は族長と話し込んでたが、何話してたんだー? まさかお前、求婚したんじゃねぇよな? もしそうならすげぇ勇気だって褒めてやるぞ」


「族長はモテるッスよぉ~、ライバル多そうッスねぇー、まぁ本気なら応援するッスけどねぇー」


 なんてことを言って俺のことをからかいながら足を進めていって……そうしながら俺達は駆けてみたり跳ねてみたり、銃や槍を軽く振るってみたりとし、体の調子を確かめる。


 サウナで得たドラーの加護がどんなものなのか、どれくらいの力を与えてくれているのかという確認のためで……うん、明らかに力が増している気がする。


 はっきりとした計測器具がないので具体的にどうとは言いづらいのだけども、そんなに力を入れなくても以前の全力くらいの力が出せている気がするし、雪の上をより速く駆けることが出来るし……そんなことをしていても全然体が疲れない……気がする。


 それは非常識な怪力とか体力とか、そういう訳ではなく、あくまで常識の範疇ではあるのだけど……それにしてもありがたいというか、凄まじいというか、サウナに入るだけでこんな力を得られるとはなぁ。


 ……その上、更に狩りを頑張って己を鍛えれば更に追加の加護を得られるとドラーは言っていたし……うん、これは今後の狩りがうんと楽になってくれそうだ。


「ドラー様の加護……とんでもねぇな、あとでお礼にお供え物を持っていかねぇと……」


「これは……明日からは鍛錬の時間を増やしても良いかもッスねぇ、こんなにも凄い加護を与えてくださったドラー様に恥ずかしいことはできねぇッスよ」


 ユーラとサープも加護を実感しているのか、そんなことを言いながら体を動かしていて……そんな風にドラーへの感謝を口にする二人を見て、シェフィは『ぶ~』と、そんな声を上げてくる。


「もちろんシェフィにも感謝しているさ、ありがとうな」


 そんなシェフィに俺がそう声をかけると、シェフィは嬉しかったのか俺の頭をその小さな手でパタパタと叩いてきて……そんなことをしながら俺達は村から離れて北へ北へと進んでいく。


 南にも狩り場があるのだが、南に行くと沼地に近くなってしまい……沼地の人々と遭遇してしまう可能性がある。


 沼地の人々……南の沼地に住まうシャミ・ノーマ族とは全く別の暮らしをしている人々。


 信仰対象も文化も価値観も、善悪の基準までも違う人々、一応交易などで交流はあるけれど、その交易は内容はこちらが一方的に不利なもので……シャミ・ノーマ族と沼地の人々の間に友好という言葉は存在していない。


 そんな沼地の人々に猟銃を見られでもしたら一大事、どんなトラブルを招くことになるやら……。


 と、いう訳で……猟銃を使っての狩りは村の北側、沼地の人々が決して入り込まない寒く厳しい土地で行うことになる。


 サラサラの雪を蹴り上げ、まばらに生える木々を抜けて川を越えて……寒いはずなのに何故か木が鬱蒼と生えている一帯へと入り込む。


 入り込んで木をよく観察して獣や魔獣の痕跡が残ってないかの確認をし……最近出来上がった痕跡を見つけたなら、その周囲を狩り場にすると決めての拠点作りだ。


 寒い中獲物を探して彷徨い続けるとそのまま凍死してしまうことがあり暖まれる場所が必要で、怪我などをした場合には治療をする必要があるし、体温を失わないように食事をする必要だってある訳で……そのための拠点という訳だ。


 まず針葉樹の葉を拾うなり刈るなりして集めて、それを敷き詰めて床とする。床が出来たらその上にテントを張る。


 村にあるコタとは少し違う狩り用のテントであるラーボ……長く高い円錐のコタに比べてラーボは、前世でよく見かけたテントの形に近く……天井の穴も小さなものとなっている。


 コタよりも更に持ち運びやすくした狩り用遠征用のものがラーボで……軽量化のために使う木材も極僅かだ。


 一方コタは大量の木材を円錐状に組み合わせて造るもので……コタは家、ラーボはテントと分類するのが正しいのかもしれないなぁ。


 ラーボを組み上げたら中に食料などの荷物を置いて、それからラーボの入り口の前に石組みの竈を作り、しっかり火をおこし……そこらで拾った薪だけでなく、村で作った炭も何個かくべておく。


 そうやって火を安定させたならラーボの中に腰を下ろし、毛皮を巻き付けておいた猟銃の確認をする。


「……凍結しないようにって毛皮巻き付けたけど、意味あるのかな、これ」


 なんてことを言いながら銃身や引き金の確認をしていると、焚き火の周囲を飛んで暖をとっていたシェフィが言葉を返してくる。


『工房でボクが作ったものは、ボクの力で守られているから凍ったりはしないよ?

 普通のものに比べて頑丈で熱にも強いし、ヴィトーがするような適当なメンテナンスでも問題なし!

 ……てっきりその毛皮は格好つけのつもりなのかと思ってたんだけど、そんなことを気にしてたんだねー!』


 その言葉に俺は、それならそうと言ってくれよと思って肩を落とすが……精霊の力のおかげでそんな風に便利でありがたいことになっているのだから文句を言うのもおかしな話だと頷いて……気を取り直して銃の状態を確認し、弾の状態も改めて確認する。


 そうやって時を過ごし焚き火で十分に体が温まったのを確認してから立ち上がり、同じく焚き火で体を温めながら獣の気配を探っていたユーラとサープの準備が完了しているのを確認してから、二人の先導に従って……気配を殺しながら獣の痕跡を辿る形で歩いていくのだった。




――――あとがき


お読み頂きありがとうございました。


応援や☆をいただけると、狩りの成果が増えるとの噂です。

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