第2話ーみらい、かこ。

 チッキショーッ!学校から家までの距離、できる限り強く地面を蹴って全速力で走った。途中で筋肉と骨とがぐにゅっと緩んだ感覚を覚えたが、止まるのも惨めでなりふり構わず走った。穏やかな春さえ憎らしく思えてきた。あんな奴すきになるから、こんな辛い思いをしなければならないんだ。あんな奴…!!


「俺は絶対お前を惚れさせるからな!」


痛い。いくらなんでも痛すぎるだろ、俺。 さっきの言葉を思い出して、くそっという小さな声とともにため息をつく。あのときに「そっかーそうだよねーあはは」とでも言えばよかったのだろうか…?

でも、不思議なことに本気で後悔はしていない。だって、あんな奴もう二度と俺の前に現れないかもしれない、天性の美女であり聖母なんだ。それでもって俺らは幼馴染。これってすげー強みじゃね??やはり諦めるわけにはいかないじゃないか。そう強く思った。これが俺の使命であり義務であるのだと確信した。よっしゃ。やってやろうじゃないの。先刻宣言した通り、俺は俺の責務を全うするぜ!あいつを惚れさせてやらぁ!

あ?なんだこれ。足の裏に凸を感じ、足をどかすと、エメラルドグリーンに輝く硬い物体が目に映った。石にしては綺麗すぎるし、こんな大きな宝石ってふつうに落ちてるもんなのか?久志はそれを手に取り、下から覗きこ




 世界中が光に包まれた。それは誰も見ることのできない速さで、ルビー色の輝きは刹那に放たれ、瞬く間に消えた。




 時間操作能力。私が前世から持ち合わせた力。前世の記憶はあまりない。うっすら

と覚えているのは私の姿かたちと、街の風景くらいかな。確か私は魔術を扱う能力者だった。唯一はっきりと頭に刻まれているのは、このペンダントのストーンの詳細と能力発動方法だ。


 ストーン(正確にはマギアストーンと言われていた)には、一般的に「対」が存在する。時間操作能力をもつこのストーンの名はルベウス。もちろんルベウスにも対となるストーンがあり、スマラカタと呼ばれる。ストーンは持てば誰もが使えるわけではなく、前世の主であった者のみ発動される。転生後に前世の記憶を持ちあわせてはならない。嶺花は禁忌を犯したのだ。魔法学校で時間転送能力実践の授業中、現実と時間の威力がぶつかり合い時空のゆがみが生じ、生徒がブラックホールに一飲みにされ大量に死人が出る大事故が起こった。嶺花も被害者の一人であったが、彼女の手にはあのルベウスがあった。これこそが嶺花のおこしたタブーなのである。時間操作能力を持つストーンを主が身に着けていた場合、転生時や時間操作がなされたときになされる前の記憶を得る。能力発動方法はいたって簡単。主がストーンを強く握り、転送したいある時点の出来事を思い出すのだ。しかし、前世への転送はタブーであり禁じられている。


 そういえば、思い出したくない前世の記憶がある。私を裏切った彼氏のこと。私が誕生日にスマラカタを送った相手であり、スマラカタの主である。泣いて喜んでくれると思っていた。それがあいつ…

「こんな石よりさ…」 え?石??石だぁ!!??いたたまれなくなり、キレて家を出て行った。そんなことがあって私たちは別れた。

こんな思いをするのが嫌だから、だれかと付き合うなんてごめんなんだ。私は自分の株のため、きらっきらな人生を送るため、自分のためだけに生きる!


「あいつの私への好意をなくしてやる!」決して惚れてはならない、自分がハッピーエンドを迎えるために!

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