第3話 ギスギスしている幼馴染。
「よう」
誕生日の朝。
清々しい気持ちで家を出たあーし。
その軒先でぶつかった相手が、最近ギスギスしている幼馴染だった。
……最悪だった。
目をこすってもう一度見てみても変わらない。
こいつとの関係は複雑だ。
元親友で、元恋敵で、今は疎遠になっている……色んな関係を混ぜこぜにした、幼馴染。
自分は……こいつと、どうやって付き合っていけばいいのか分からない。
なんだか気まずいし、何を話せばいいのか分かんないし、少なくとも今日の――誕生日の間は距離を置きたかったんだけど……。
「……っと。お、おはよ……う」
ちょっと悩んでからそう言って、もう一度頭を下げる。
挨拶された、という事実が勝った。
返事をしないのは意識してるみたいで癪だったのだ。
今度は、頭を上げる前に返事があった。
「ん」
その返事は短かったけど、満足したような表情で一つ頷いて、そそくさと駅への道を歩き始める。
あーしは、呆気に取られていた。
……まるで、毎日繰り返している、なんともない日常を消化したみたいな雰囲気だった。
ヤツは少しずつ遠ざかっていく。
……何だ。何だ? 何だったんだ。
用もないのに、朝から門の前で待っていて?
挨拶だけをして満足して立ち去った?
わけがわからない。
わけがわからないけど……何故か、変に焦っていた。
遠のいてくヤツの姿が、寂しく見えたからかもしれない。
四か月前、あーしに告白して、あーしが応えられなかったあの日の、あの逃げていく背中と同じに見えたかもしれない。
でも、その辺りは結局、考えてもよく分からないことだ。
人の気持ちどころか、自分の気持ちすら全然分かんない。
もし分かっているなら、この後悔の四か月の中、どこかで答えを見つけているはずだ。
ここまで苦しまずに済んだはずだ。
だから、そんなあーしが信じれるのは、自分の直感と反射だけだ。。
あーしの足は、ヤツを追いかけていた。
なんでそうしているかは分からないし、そうしてどうするかも分からないけど。
そうしないと後悔するってことだけは、体が分かってるみたいだった。
「――っ!」
朝っぱら、閑静な住宅。決して小さくない足音が響く。
部活の中でも一番早い足だ。伊達に小さい頃から男の子たちと遊んでるわけじゃない。
すぐに追いついた。あーしは、そのまま勢いをのせて――
――バチン!
えらくいい音が鳴ったな、と他人事みたいに思った。
あーしの手がピリピリ痺れる。少し荒くなった呼気を吹きかけて誤魔化す。
その手で叩かれた彼の体は、果たしてぐらりと揺らめいた。
「――ってえ!」
ワンテンポ遅れて振り返ってくる彼の顔には、敵意がちらちら見え隠れしていた。
こんな顔見るの、昔喧嘩したとき以来だ。
――なんだかんだこいつも、そんなに変わっていないんだ。
そのことで、何故だか安心してしまったあーしは……少し毒気を抜かれてしまった。
気まずいのは変わらないけど、もう今は最悪だとまでは思わない。
「……なんの用だよ」
「何って……えぇっと」
しまった。と思った。たぶん顔にも出た。
行動に任せたのは良いものの、何も理由を考えていなかった。
今のだって結局、こいつとみなちゃんが付き合ってるのを認められないからリベンジしただけだし……。
まずは、家の前に立っていた理由を聞こうとした。
それは、さっきからどうしても気になっていたことだった。
でもきっと教えてくれないだろうなって予感もあって……結局、やめた。
でも、あーしは諦めない。
手始めに、少し前に売った恩を回収することにした。
あーしがこいつに貸したままのもの。
みなちゃんとこいつが付き合った一番の功労者。
ふふん、と鼻を鳴らして、手を伸ばす。
「モバイルバッテリー、かえせ」
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