第一章 第三節 第二話・後
瀬津の理屈に従うなら、何かしらの代替手段が必要ということになる。自分の命を削らずに、比較的安全に呪いを成就させるための方法が。もし、あの丑の刻参りに強力な呪術としての力があるのならば、
「そうだとしても五人は無理だろうさ。君のように神社の血縁だったり、陰陽師の家系であってもね」
現状では、犯人は周防ではなく相模の怨霊であるという当初の路線で考えるのがまだ現実的、ということだろうか。どちらにせよ証拠らしい証拠は一切ないことに変わりはないが。
結局、こんな田舎くんだりまでやってきておいて、ほとんど何も進展していない。これからってタイミングで瀬津が捕まったのだから仕方がないし、そもそも依頼を受けてまだ一日も経っていないのだから焦る必要はないとはいえ……
「何にしても今はまだ情報収集の段階。結論を急ぐことはないさ。じっくりと調べればいい」
状況的に調べるのは俺の役目になりそうなのに、気楽に言ってくれる。
「つっても、見聞きしかできないんだから大したことはできないぞ。分かってるとは思うが」
「いや、ひとまず調査は私の役目だ」
私の役目と言われても、どうやって。あの二人に話を聞くにしても、せめてもう少し不利な状態から脱却しないと難しいだろうに。
……と、それまで扉を見ていた瀬津の目線が、いつの間にか俺に向いていた。よく見慣れた、挑発的というか蠱惑的というか――とにかく、あまり好ましからぬ目つきだった。
「恭司君には勤君に伝言を頼みたい。ついでに呼び出してもらえると助かるかな」
は? 何を言っているんだ? 堂島さんは俺のことが見えていないし、声を聞くこともできないこと、瀬津だって当然知っているはずなのに。
俺がいるということは、色々あって知っているし一応納得もしているようだが、意思疎通ができない以上どうすることもできない。意図的に心霊現象を引き起こして意思を伝えるなんて芸当は、残念ながら俺には不可能だ。一体どうやって……
「お前、まさか」
嫌な予感というものは、得てして当たってしまうものだ。そうと分かっていても、今回ばかりは外れていてくれと、どうしようもなく俺の心は言外に叫んでいた。
あいつは極力、こちら側の厄介事に関わるべきではない。関わらせたくない。あいつには平穏に生きていてほしいと切に願っている。だから、俺はもう二度と、あいつと会うべきではないというのに。
「せっかくお知り合いになれたんだ。手を借りようじゃあないか。君としても、また会えるのは嬉しいんじゃないかい?」
だから俺とあいつはそういうのではないと何度言ったら分かるんだ。下世話にも程がある。
「だけどな」
「他に手はないよ。それとも、他に知り合いにいるのかな?」
……以前はいたが、今会えるのはあいつだけだ。
確かに堂島さんがここに来れば、状況は一気に動く。周防が呪術を使ったにせよ違うにせよ、瀬津を監禁したという現実的な罪で身柄を押さえられるし、そうなれば今回の依頼に決着がつけられる可能性もある。それは分かるんだが。
「……分かった。ただし、あとでちゃんと礼は言えよ?」
「勿論だとも。当然、謝礼も渡すつもりさ」
そこまで言うのなら、今回に限ってはあいつの力を当てにさせてもらおう。まったくもって不本意であることには変わりないが。
ため息を一つ。まったく、せめて俺が死んでいなければ……などと一日だけでこれだけ考えることもそうないだろう。何にせよできるだけ手早く済ませよう。
「それで、伝言ってのは?」
「ああ、その前に」
そう前置きした瀬津の口から出たのは、俺が予想だにしなかった言葉だった。
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