第一章 第一節 第六話
「今回の件、藤堂さんには報告しなくていいのかな?」
ハンドルを握る瀬津の表情からは、どことなく含みを感じた。要するに、口実を与えてやるから会いに行ってこいと、そういうことなのだろう。
「いいんじゃないか? お前が必要だっていうんなら、電話しておいてくれ」
俺から会いに行くことは、もうないだろう。今日のようなことがまたあれば話は別だが、そう何度もそんな事態に見舞われるとは思えない。藤堂も次からは一層気をつけるだろうし、今後、あいつに再会する可能性は限りなく低いと、俺は思う。だからこそ、と言い換えられなくもないが。
それはさておき。結局、今回の依頼は『成功』という扱いになった。瀬津は前金の返還も含めて報酬の受け取りを断ったが、そこは迫田が譲らなかった。曰く、自分達の不手際で隠しカメラを見逃していたのだから、これはそれを見つけてもらったことに対する謝意、だそうだ。
まあ確かに、壁の内側にあったものはともかく、ブレーカーに隠されていたものについては不手際、というよりも最早怠慢とすらいえる。
「というか、よく見つけられたな、あんなもの」
「まあ、目に自信はあるからね」
それだけでああもあっさりと見つけられるとは思えないのだが。まあ、それは別に、正直どうでもいい。
「で、藤堂が見たのは、本当に勘違いだと思ってるのか?」
俺としてはそうは思えない。藤堂はきっと、間違いなく現実として見たはずなのだ。疲れていたから夢と現実を混同したというのはよく聞く話ではあるが、藤堂に限ってはそれはないのではなかろうか。
無論、それは全て、俺の無責任な思い込みであるのは自覚している。ただ、そこを瀬津が本当に否定しているのだとしたら、少々腹立たしい思いがあるのは事実だ。
「いいや」
――その返答は、少し意外だった。
俺は藤堂のことを知っている。あいつが霊感に苦しむ場面に出くわしたこともある。だから、藤堂の証言を俺は無条件に信用した。
しかし瀬津にとってはどうだ。瀬津は藤堂とは面識がない。それは電話口でのやり取りから明らかだ。なら、瀬津にとって藤堂の話は、安易に字面どおりに受け取るべきではない。でなければ、瀬津の信条、すなわち『他の可能性が全て排除されない限り、超常の介在を断定しない』ことと矛盾する。そう思うのだが。
「私は藤堂さんのことは知らないけど、君は私の助手だろう? だから、君が信じるというのなら、それなりに考慮するさ」
それはまあ、ありがたい話ではあるのだが。
「勿論、本当に勘違いという可能性だってある。だから、君の質問へはこう返そう――分からない、とね」
なるほど、分からないか。それはなんとも、状況に照らし合わせれば瀬津らしい、そして、思えば当たり前の結論だった。
「一つ言えるのは、藤堂さんが見たものと、今回の依頼とには、何ら関連性はないであろうということだけ。なら、私が真実を知る必要はないんじゃないかな」
「そういうもんか」
「そういうものだよ」
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