ある夜の事件

 キャロルとロバートは家のリビングで寛いでいる。レコードでマイ・ブルー・ヘヴンを聞きながら、ふたりで肩を寄せ合う。ロバートはキャロルの髪を撫でて、そして軽くキスした。キャロルは新しい従業員のことと、リオーナが起こしたちょっとした事件をロバートに伝える。

「それはすごいなぁ」

 ロバートは軽く驚いて、ほのかに揺れる明かりが作り出すムードに酔っていた。

「きょうは……」

「うん……」

 ふたりは見つめ合う。じっとりとした空気があたりを満たす。

「愛し……」

 扉がどんどんと叩かれた。

 ロバートは肩をすくめて、むこうへ行った。

 玄関で口論がして、銃声が鳴った。キャロルは驚いて、胸騒ぎを覚えつつ、店舗のある階に向かう。

 店のなかで見た光景を彼女は受け入れられないでいる。何も言葉にならない。泣き崩れて、ロバートの血をかき集めようとする。

 こぼれた血は元には戻らない。両手が真っ赤になって、うしろに人が近づいてくることにも気がつかないでいた。

 そっと誰かが彼女の肩を抱いた。彼はキャロルの耳元で囁く。

「俺だ」

「あなたは……」

「現実を直視しないで。これは夢。悪い夢。だから、キャロル。君は眠って。ここに、いてはいけない」

 キャロルの意識は遠のく。

 傍らにいた彼は床に拡がる液体をぺろっと舐めた。

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