第17話 嘘か実か


 Googleドイツ有限会社。三階。応接室。


 部屋には、椅子に座っていない男二人と女一人。


 商品の説明と、起きた現象の説明が終わったところだった。


「つまり、この銀光が、弾丸を防いだわけですか……」


 話を要約したのは、ゴーグルをつけたウォルターだった。


 目をぱちくりさせ、ジェノの体の周りにある光を見つめている。


(……便利な世の中になったもんね)


 これは本来、一般人には見えない光。


 見るためには、特殊な訓練を受ける必要がある。


 覚えるのは一苦労だけど、習得すれば既得権益が生まれる。


 それなのに、機械を通すだけで見れるんだから、商売上がったりだった。


(ま、そのおかげで楽に稼げるんだけど)


 時代が変われば、当然、稼ぎ方も変わる。


 柔軟に対応できないやつから、落ちぶれる世界。


 抵抗なんてない。金を稼げるやつが一番偉いんだから。


「ノンノン。銀光ではなく、センス。用語は守っていただかないと」


 思考を整理し、セレーナは商談を進める。


 嫌味ったらしく、それでいて、技術者っぽくね。


「……この技術は我々の未来を担う鍵。ぜひともお譲りいただきませんか」


 うざ絡みは軽くスルーされながらも、トントン拍子で話は進む。


 ただ、ここがゴールじゃない。気にしないといけないことは他にあった。


「いくらなら、お出しいただけますかな。特許と生産ライン込み込みで」 


 問題は出資額。まだ値段は提示していなかった。


 理由は単純。先に提示すれば、相手の腹の底が見えない。


 どれだけ価値があると思っているか。それを聞き出す必要があった。


「特許に5000万。生産ラインに3000万ユーロ。というのはいかがでしょうか」


 ウォルターは懐から小切手とペンを取り出し、告げる。


 一億ユーロには及ばない。ここから値上げ交渉してもいい。


「……値踏みされた感はあるが、無難な額でしょうな。ご英断感謝する」


 だけど、これは嘘の商談。変に欲をかいて失敗するのもよくない。


 すぐに右手を差し出し、商談成立を急いだ。勘づかれる可能性もあったしね。


「――待ってくださいっ!」


 そんな時、声を響かせたのはジェノ。


 はっきり言って嫌な予感しかしなかった。


 商談をぶち壊しにするんじゃないかって感じ。


(口を挟むのがベスト……。でも、良い方に転ぶ可能性もある)


 期待と不安の割合はちょうど五分と五分。 


 そう考えている間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。


「金額に、不服でもありましたか?」


 先に口に出したのはウォルター。


 相手は年下なのに、対等な目線で対応してる。


 この感じなら、年齢を理由に聞き流されることはないはず。


(はぁ……。聞いてあげましょうか。今度こそは上手くやるでしょ)


 今から口を挟んでも、もう遅い。


 彼の反応を待つしかなくなっていた。


「特許も生産ラインも全部、嘘。この場にあるゴーグルだけが本物なんです!」


 そうして、切り出されたのは、紛れもない事実。


 またしても、悪い方向に舵を切られてしまった瞬間だった。

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