第14話 次なる目的


 ドイツ。ミュンヘン郊外。テレージエンヴィーゼ公園。


 人通りは少なく、辺りには白いテントが張り巡らされている。


「~♪」


 鼻歌混じりに手にするのは、赤いゴーグル。


 それをセレーナは目に装着して、辺りを見回していた。


「一つ5000ユーロ……。こんなに貰って良かったんでしょうか」


 隣を歩くジェノの両手には、赤い段ボール箱。


 中には、1ダース分の新型のゴーグルが入っている。


 単純計算で、6万ユーロの商品が手元にあることになる。


 出費はペンとサイン色紙代だけ。ボロ儲けにもほどがあった。


「それ相応の付加価値があっただけのこと。むしろ、誇るべきかと」


 商品やサービスには、付加価値というものがある。


 主に、生産の過程で付け加えられた価値のことを指す。


 例えば、さっきの場合だと、原価はサイン色紙とペンだけ。


 どれだけ質を高めても、利益率を大幅に増やすことはできない。


 だけど、有名人がサインすれば、原価以上の価値が生じる品になる。


 最短でお金を稼ぐには、品質以上に気をつけないといけない要素だった。

 

「……うーん。たまたま結果が出ただけで、中身は変わってないんですけどね」

 

 イタリアで行われた三人一組の大会『ストリートキング』。

 

 全世界で放送され、イタリアでの視聴率は40%を超えていた。


 その中での優勝。下手なプロスポーツ選手より有名になってる。


 だから、サインに価値ができた。それだけ、実績は重要ってこと。


 一セントの価値にも繋がらない、人の中身なんかよりも、ずっとね。


「それでこそジェノ様かと……。それより、これから忙しくなりますよ」


 ただ、こっちの考えを押し付けるつもりなんて微塵もない。


 彼には彼の価値観がある。むしろ、そのままでいてほしかった。


 じゃないとリーチェ様の一番弟子なんか、一生なれないだろうから。


「……全然予想できないんですけど、これを使って、何をするつもりなんです?」


 そんなジェノは怪訝そうな顔をして、首を傾げている。


 ともかく今は、一億ユーロの入手が最優先。弟子の話は今じゃない。


「超大手企業Googleに、こいつの特許を売りつけます。助手役は任せましたよ」


 次なる目的を告げ、小気味のいい「えぇ!?」という音が辺りに響き渡った。

 

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