第8話 首謀者


 セレーナは右手を伸ばし、フランクの左手首を掴んでいる。


 直後、フォークが刺さった白ソーセージが地面に落ちていく。


 落ちたのは恐らく、毒入りの料理。侵入者の毒殺が相手の狙い。


「ここが、敵の巣窟……っ」


 歯を噛みしめ、席から立つのはジェノ。


 今にも飛び出していきそうな若さを感じた。


 体の表面には、銀色の光。センスを纏っている。


 意思の力。人体に秘められた潜在的生命エネルギー。


 意思の強さに応じ、生身の数倍以上もの力を引き出せる。


 一般人には見えない。同じ力を扱えるものだけが見えるもの。


「お抑えくださいませ。殺る気なら店に入った時点で仕掛けたはずです」


 一方、セレーナは努めて冷静に止める。


 ここで焦っても、いいことなんて一つもない。


 恐らく、相手の方から何かしらの反応を見せるはず。


「……つまり、食べずに待ってりゃあいいのかぁ?」


 すると、フランクは落ち着いた様子で語る。


 意外にも状況の本質を見抜いてるみたいだった。


 これなら、誤って料理に手をつける心配はなさそう。


「おっしゃる通り、ここは静です。相手の動を待ちましょう」


 早速、掴んでいた手を放し、セレーナは指示を飛ばす。


 後は出方を待つだけ。この視線の中にいる首謀者の動きをねぇ。


「……」


 すると、コツ、コツ、コツと背後から足音が響く。


 予想した通りの展開。ここで首謀者お出ましの様子。


 殺気は感じない。必要以上に警戒しなくてもよさそう。


(黒いローブを着るビール腹の中年親父と見た。それもちょび髭付き)


 振り返る前に、もう一度予想を立てる。


 全財産ベットできるぐらいの自信があった。

 

 賭けでもあれば、喜んで勝負してあげたのにぃ。


「――おっほん。よくぞ見抜いた、侵入者よ。褒めて遣わすぞい」


 聞こえてきたのは、頭がキンとするような甲高い声。


 幼げなのに、背伸びしたような言葉で偉そうにしている。


(ちょ、ちょちょ、嘘でしょ。見なくても分かる。この感じは――)


 胸がトクンと高鳴り、身体は熱く火照っていく。


 振り向くと、黒髪をおかっぱ頭にした、幼女がいた。


 フィールドグレー色のぶかぶか軍服と制帽を被っている。


 首には黒い鉄十字勲章がかかり、左腕には卐印の腕章がある。


 背丈は130cm前後。年齢は十歳未満。好みのドストライクゾーン。


「……やばっ、尊すぎ、なんですけどぉ」


 立ち眩み、鼻から血が勢いよく流れ、意識は天井に向く。


 重度のロリータコンプレックス。それが牙を剥いた瞬間だった。

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