第7話 満場一致のパラドックス


 聞き込み調査が始まり、ちょうど二時間が経つ。


 再び向かいの席に座ったのは、ジェノとフランクの二人。


 ランチタイム真っ只中になり、ビアホールの店内は賑わい出していた。


「進捗は、いかようでしたか?」


 セレーナは、二枚の皿と、バスケットを差し出した。

 

 皿には、食べられない皮をすでに剥いてある白ソーセージ。


 バスケットには、こんがり小麦色の焼き菓子パン。プレェツェル。


 両方とも、ドイツの伝統的な料理で、この店の人気メニューでもあった。


「……こっちは全然でした。フランクさんは?」


「おでも駄目だぁ。尻尾の先すら見えてこねぇよぉ……」


 二人は肩を落とし、落ち込んだ様子で述べる。


 そのせいか、用意した食事に食指が動いていなかった。


「ご苦労様でした。おかげさまで見えてきたことがあります」


 二人の苦労は、徒労で終わらせない。


 そのために、この席で観察し続けていた。


 周りの視線、反応、空気感、立ち居振る舞い。


 客観的に見通せる立ち位置から、お客を見ていた。


「……え。何か、分かったんですか?」


 落ち込んだ顔を上げ、ジェノは尋ねる。


 分かりやすく希望に満ちた表情をしていた。


 そんな顔をされた以上、期待には応えないとね。

 

「満場一致のパラドックス。という統計学をご存じですか」


 切り出したのは、統計学の基礎の基礎。


 分かる前提で話を進めるつもりなんてない。


 共有は必須。しておかないと大変なことになる。


「……なんだぁ、そりゃあ。食いもんじゃあなさそうだなぁ」


 先に反応したのは、フランク。


 フォークを握りながら、答えてる。


 そろそろ食事にありつきたいって感じ。


「確か、多数決で全員一致するのはおかしいって理論です、よね……」


 ジェノは理論の中身を口に出し、顔を曇らせる。

 

 やっぱり、物分かりが早い。恐らく答えに行き着いた。


 今頃は、背筋が凍って、嫌な汗が背中を伝ってるってところ。


「理論なんか、なんの腹の足しにもなんねぇぞぉ。それよか、こいつの方が――」


 興味なさげなフランクは、予想通りの反応を見せる。


 そして、ソーセージをフォークで刺し、口に運んでいった。


「……お待ちください」


 すぐさまフランクの腕を掴み、食事を止める。


 自然と二人の目線は、こちらにつられ、周囲に向いた。 

 

 そこにあったのは、異様な光景。目に見えた答えが広がっている。


「――手品の種は割れました。ここが魔術結社『イリーガル』です」

 

 満場一致のパラドックス。

 

 お客の目線は全て、こちらに注がれていた。

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