第18話

 

「山川先生、俺このダンジョンの事知らないんですけど、何が出てくるんですか?」

「このダンジョンはゴブリンだけで、ボスとしてホブゴブリンが出るくらいですね」

「下るほど、ゴブリンが強くなるんですか?」

「下るほどゴブリンが群れて、最大6体で行動します」

 

 山川先生の詳しい解説を聞きながら、配信を続けているとゴブリンが1体出た。

 薄緑色の肌、黄ばんだ歯と濁り切った黄色い目、身長150センチくらいの魔物だ。

 腕や足は細いのにでっぷりとした腹が、異様に目立つ。

 とても弱いが、力はそこそこある。


 戦闘の様子をカメラに収めようとしたのだが、サキたんが一太刀で倒してしまった。

 刀を振り切ったサキたん、ボロボロと空気に溶けていくゴブリンだけを捉える。


「サキたん、カメラ意識カメラ意識」

「今日はムリ」

「どして?」

「3層までマッピングするから」

「ふーん」


 山川先生の所まで戻ってから、3層までマッピングするの意味を聞くと。

 4層が休憩層になっているから、今日そこまで行くからだという。

 俺の知らない内に色々決まっているようだ。


 ダンジョン2層に着くまでに戦闘は3回あったが、サキたんとひろしで難なく倒していた。

 2層で最初に出会ったゴブリンは3体の群れだった。

 今回こそはカメラに収められると、移動していくと1体の時と変わらず直ぐに倒されている。

 村上も動いているが、サキたんが2体倒したようだ。


「サキたん、速いわ」

「さっさと行く」


 2層ではそれ以降5回接敵して、全部を村上とサキたんで倒してしまった。

 しかし、それでは相手校の練習にならないということで、3層から村上とサキたんに交代で1人加わることになった。


「それじゃ、まずは西崎な」


 ひろしの指名で西崎が前方に向かう。

 確かに相手校の中では1番動きがマシだった。

 もしもの時は権藤さんがどうにかしてくれるはずだ。


 3層ではゴブリンが5体の群れで出てきた。

 この感じだと、早々に山川先生が言っていた6体の群れが出てきそうだ。

 接敵は5回、群れは増えたが戦闘回数は増えていない。


「山川先生。3層で5体の群れでしたけど」

「そうですね。私が確認した時は1人だったので、その違いでしょうか?」

「生徒たちは7層まで行ったことないんですか?」

「はい、多数の探索者と潜ることはいい経験になるでしょう」

「まあ、そうですね」


 4層に着いたのは16時前、こまめに休憩を取っていたから割と時間がかかった。

 戦闘していない生徒も疲れ切っている。

 配信を切って、テントの設営をしているのを見ていると近くには並木さんがいた。


「仁、ここのダンジョンはE級ダンジョンらしいが知ってたか?」

「いえ」

「下調べくらいして来い」

「木口さんがコラボ決めたんですから、調べてるでしょう?」

「顧問だろ。それに行方不明の事は知らないみたいだったぞ」

「大丈夫ですよ、皆さんが付いてますから」

「人任せか、まあ生徒は任せろ」

「木口さんも頼みますよ」

「分かってるよ」


 その日は上級探索者たちが夜番をしたため、生徒と先生はぐっすりと眠ることができた。

 俺は夜番の朝方担当だったが。

 起こされたのは6時、テントも立てず寝袋に入っていると蹴り起された。


「おい、起きろ」

「並木さん、蹴らなくても」

「腕がなまってないか見てやるんだよ」

「それ逆でしょ」


 寝起きと同時に戦闘をすることになった。

 上級探索者たちは起きており、面白そうにこちらを見てくる。


「テント組が起きれば、模擬戦しましょう?」

「そこらは配慮するんだな」

「配信で見せるのが一番いいですね」


 俺のなんてことない呟きで、配信最初に模擬戦をすることが決まってしまった。

 テントは片付けられ、朝食を食べている生徒と先生。

 木口さんの前にカメラがあり、俺と並木さんは向かい合っている。


「岩沢、『魔女』相手にして死なないのか?」

「ひろし、俺が魔力操作教えたんだぞ。負けたら恥ずかしいだろ」

「は?」

「岩沢、その嘘はキツイ」

「嘘じゃねえよ」

「嘘じゃないよ高森君。3年前に出会って、教えてもらったわ」


 全員の視線が俺に向けられたため、ひろしを指さして笑う。

 ムッとした顔が見られて、俺は大満足だ。

 

「ひろし、決めつけは良くないぞ」

「いつから探索者してたんだよ?」

「高校生」

「仁、模擬戦」

「はいはい」


 手に木刀はあるのだが、相手は『魔女』だから魔法をバカスカ撃って来る。

 魔力を体と木刀に流して、合図を待つのだが誰も合図してくれない。

 顔を前に向けると、不意打ちで魔法が飛んできているところだった。


 いつもであれば感じ取れる。

 権藤さんがワゴン車の周囲に魔法を使った時も、すぐに分かった。

 恐らく、魔法だけに魔力が使われているからだろう。

 魔力自体の漏出がないから、魔法の発動が分からなかったのかも。


 飛んできたのは生徒でも使える魔法「ロックバレット」で、複数飛んできている。

 その後ろには「ファイアボール」「ロックバレット」「ファイアボール」と並んでいて、弾幕を張って逃がさないようにしていた。


 魔力の流れをより速くして、身体強化の段階を上げる。

 木刀を地面に突き刺し、木刀を基点に魔力を空間に広げた。

 木刀の左右から魔力で出来た壁が広がっているわけだ。


 木刀の後ろで魔法がなくなるのを待っていると、後ろから魔力の揺らぎを感じた。

 背後には笑いながら杖を構えている並木さん。

 ジャケットに強化魔法を掛けて腕で杖を受ける。

 逆の手で杖を握り、動かせないようにするとすぐに離した。

 向かってくる拳を手で受け止め、人差し指の先に魔力で刃を作り、顔に突きつけた。

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