第17話
模擬戦以降は各々好きなように過ごした。
その日の夜、俺は上級探索者たちに呼ばれてワゴン車に来ている。
開けたままのスライドドアから聞こえてくる声が、酒盛りしていると理解させた。
「来ましたよ」
「来たな、岩沢。それ、ビールだ」
「飲めないの知ってるでしょ、ダイゴさん」
「ビーフジャーキーだ」
「北島さん、ありがとうございます」
ビーフジャーキーをかじりながら、何のために呼んだのか聞いた。
すると周囲の空間に魔法が発動したのを感じ取る。
これは。
「権藤さんの魔法ですね」
「なるほど、権藤に掛けられたんですね。岩沢さん」
「はい。それで俺は何を言われるんですか?」
「仁、明日から行くダンジョンは、偶に行方不明者が出るダンジョンだ」
「そうなんですか」
「ああ、おそらくは転移系の魔法、罠だとは思うんだが」
「それなら、明日生徒たちに言ってください」
「生徒が巻き込まれたらどうする、お前は顧問だろう、責任を負ってるんだぞ」
「5人いるじゃないですか。付いててくださいよ。おやすみなさい」
その言葉に心底驚いたような顔をしているが、もともと俺はそういうのを押し付ける気満々だ。
指導すら任せているのだから、今更だろう。
それを本人が言うのは、違う気はするが。
翌朝、ダンジョン近くのホテルにチェックインして、荷物を置いてダンジョンに向かった。
コラボ相手は受付建物前で待っており、周囲に他の探索者がいる様子はない。
行方不明というのは本当なのかもしれないな。
「おはようございます、皆さん」
「おはようございます」
挨拶もそこそこに、ダンジョンに入る。
誰もいないから1層で配信準備を始めた。
このダンジョンはいつもと違い、岩の壁が白っぽい色をしている。
いつもは茶色っぽいから場所の違いか。
4時間くらい移動と高地だからだろうか。
いつも通り、俺の背中にはギチギチリュックに入ったバッテリー、バッテリーから伸びたコードは左手のカメラに。
山川先生も俺と同じような状態だった。
やはり、カメラ役は先生なんだな。
3日間訓練だから手に持つのも最初だけだ。
訓練しやすい場所に移動すると、三脚を立てて配信することになるだろう。
「配信開始したぞ」
「こっちも開始したよ」
「報告します」
互いの生徒が同じようにスマホからSNSに配信開始を報告をすると、視聴者が増え始めた。
現状カメラに映しているのはうちの部員だけ、相手校はすぐ横で配信をしている。
「同接増え始めた、7000人」
「はい、皆さん。おはよう」
「今日、私たち実は、コラボ配信でーす」
ハイテンションリカたんの言葉で、コメントが加速し始める。
コメントでは、上級探索者とコラボだと思っている人が大半だ。
実際、それもあるけど。
「この人たちでーす」
ひろしの言葉を合図にカメラで4人を捉える。
上級探索者に指導してもらえると浮かれていた4人は、コラボに緊張して固まっていた。
言葉がほんの少し遅れてしまった彼らに代わって、リカたんが紹介する。
「――――県立――高等学校のダンジョン配信部の皆さんでーす」
「西崎です」
「東谷です」
「北森です」
「南林です」
「はーい、よろしくお願いします。今日から3日訓練をしてから、ダンジョンアタックします。そうですよね?」
「はい、角川さん」
どうにか動き出した4人だが、まだまだ緊張はしている。
4人だけとは勝手が違うのか。
「そして、その訓練の指導をしてくれる方を紹介します。この方たちです」
〈マジか!〉
〈ほんとコイツら恵まれてんな〉
〈魔女いるじゃん〉
〈鉄壁も〉
〈この前権藤と代わった北島も〉
〈樋山の紹介か〉
〈いいな〉
紹介が終わると、1層にあるという大部屋に移動する。
到着すると三脚にカメラを固定して、それぞれの指導の様子を垂れ流す。
そこでようやくカメラ役の山川先生を紹介できた。
互いのカメラで大部屋全体を映せるように、場所を移動して訓練を見守る。
アウトドア用の椅子を組み立て、辛いかき餅とピーナッツの菓子を出す。
さらにノンアルコールビールを出して、良い音をさせて開いた。
そして、一口飲もうとしているところで、声を掛けられる。
「岩沢、訓練」
「サキたん」
そうだった。
コメントに批判が増えているのを確認しながら、カメラの後ろからサキたんに目標を与える。
「サキたん、ボール投げるから、避けて弾いて体に当たらないことを意識して」
内ポケットから軟式野球のボールと紐を取り出して、ボールが見えないくらいグルグル巻きにする。
紐を椅子の足に結び付けた。
「あっちの壁まで移動するか」
スマホで配信の確認をしながら、他の人がいない壁まで向かう。
訓練は始まったばかりだから、他の上級探索者たちは説明中だ。
「岩沢、それ当たらなかったらどうなる?」
「死ななくなる」
「訓練する気ある?」
「あるある、でも俺の戦い方は魔力使うから、流せないサキたんには無理ですー」
「それもウザい」
「それ用の特訓は明日から、今日は知らないダンジョンでも基礎的な動きができるように確認だけ」
それっぽいことを言うと、サキたんは頷いて自分の刀を抜いた。
掠ればそれで紐切れるんだけど。
内ポケットから木刀を渡した。
「いくぞ」
椅子に座ってボールを投げる。
力が入らないため、手で投げるだけになる。
サキたんはボールを上手く弾いて、避けて、何なら打ち返してくる。
それから12時まで休みを取りながら、ずっとボールを投げていた。
サキたんは、思っていたよりも飽きていないようだ。
俺は飽きた。
訓練1日目はそんな感じで終わった。
訓練2日目は木刀を渡し、体にある魔力を木刀にまで流してもらう。
下手な説明をどうしようかと考えていたが、サキたんは理解してくれた。
「体の魔力、岩沢が言う石を木刀に動かす。それで体の一部みたいにするわけ」
「たぶんそう」
「体から木刀に動いた魔力はどうなる」
「体から離れると消える」
「体から減った魔力はどうなる」
「魔力が回復するまで減ったまま」
そうしてサキたんが魔力を動かすのを見ているだけになった俺は、辛いかき餅とピーナッツの菓子を取り出す。
炭酸水を出して飲もうとしていると、木口さんがやってきていた。
サキたんの訓練状況を確認して、している風を出しておく。
「岩沢さん、早紀さんの指導は?」
「やってるよ、魔力を動かす訓練だ」
「同じ訓練をするから、一ツ橋さんに訓練見てもらうように言われて」
「サキたん、説明お願い」
俺の前で武器を持って、動かない人が増えた。
仕事は偶に魔力を感じ取り、動いているか確認するだけだ。
2日目の訓練結果、サキたんが木刀の切っ先まで魔力を動かせた。だが、往復して体に返ってきていない。
木口さんは、メイスの柄から動いていない。ある程度体から離れると動きが悪くなっていた。苦手みたいだ。
訓練3日目、朝から昨日と同じ光景しか見ていない。
サキたんは切っ先から往復を開始して、木口さんは昨日よりマシ程度だ。
「サキたん、良い感じ」
「私は?」
「がんばれ」
訓練最終日、サキたんはどうにか成功。木口さんはメイスの先までどうにか動かすことに成功した。
俺の指導は目に見えない面白みのないものだったが、この3日間の訓練は視聴者に好評だったらしい。
今日の最後に模擬戦をしたのだが、コラボ相手の4人が随分と良くなっていた。
訓練内容は配信していたから、同接も増えていたようだ。
「明日からダンジョンアタックです。2泊3日で最下層の7層を目指します。楽しみにしててくださーい」
ひろしが締めくくると配信を停止する。
俺は知らなかかったのだが、7層のダンジョンらしい。
そもそも7層なら、日帰りで行けると思うのだが。
それを木口さんに聞くと。
「山川先生が、ここのダンジョンはそこまで広くないからマッピングの練習させたいんだって」
「面倒な」
「2泊させるのもいい経験だって」
「否定できんな、それは」
コラボ5日目。
みんな準備万端だ。
緊張した顔つきを見ると、出会った頃の噛みつき具合が懐かしく思えてくる。
最近は投げやりな対応が多いため、反抗期の娘を持つお父さん気分だ。
「チームで潜るときの役割決めさせたんですか?」
「決めさせたよ」
「俺たちも付いて回るからな、お前の所為で」
「まあ、頑張ってください。カメラ回してますから」
並木さんと一ツ橋さんだけでなく、樋山さんたちも生徒につくらしい。
現在ダンジョン1層、配信は始まっている。
前方がひろし、サキたんと権藤さん。
中間にコラボ相手の4人、リカたん、鈴木と並木さん、一ツ橋さん、樋山さん。
後方に村上と北島さん。
しかし今回、村上は機能しない。
なぜなら俺と山川先生が最も後方だからだ。
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