第16話


 〇


 今日、実は最後の部活だ。


 夏休み前、最後の部活動だ。


「明日から夏休みですけど、平日は部活あります。それに前から言っていたコラボも8月の14日に決まりました」

「相手はだれなの、先生?」

「高校の配信部。最初のコラボ相手が上級探索者だったら、炎上しそうだからそうした」

「木口さん、樋山さんから知り合いの探索者と会う予定あるんだけど、コラボの時でいい?」


 申し出に面倒くさそうな顔を向けてくる木口さん。

 俺も「知り合い」とか言ってるのは、上級探索者だからだ。

 炎上を警戒して他校の配信部なのに、上級探索者とコラボするのは困るだろう。


「それは、上級探索者ですか?」

「はい、それは上級探索者です」

「その上級探索者には、二つ名が付いていたりしますか?」

「はい、付いています」

「具体的には?」

「ちょっとまって」


 スマホから誰との予定が入っているか、確認する。

 樋山さん入れて、5人。


「樋山さんと権藤さん、北島さん、一ツ橋さん、並木さん」

「だれ?」

「え?」


 その言葉にスマホから目を離して、リカたんを見た。

 あれだけ、俺が指導する前は引き合いに出して駄々こねてたのに。

 だが、他のみんなも思い当たるところがないらしい。


「まず、樋山さんと権藤さんは知ってるよな?」

「うん」

「で、北島さんが権藤さんと交代した人」

「あー! 言ってた」

「一ツ橋さんが『鉄壁』」

「『魔女』の護衛だ!」

「並木さんが『魔女』」

「『魔女』⁉」


 実名公表してないのかな。

 そもそも俺は二つ名の方を知らなかったからな。

 会う会わないの話かもしれん。


「岩沢さん、炎上しない?」

「大丈夫だろう。羨望のまなざしと嫉妬が増えるくらいだな」

「俺たちに問題押し付けてないか?」

「会いたそうだったからそうしようと思ったんだけど、いいなら断りの連絡入れとくぞ」

「嘘、うそ!」

「そうか、じゃあ連絡しとくな」


 癖の強い人たちばかりで、俺一人で会うのは嫌だったからちょうどいい。

 生徒の指導を任せればいいだろう。

 視聴者にコラボの事は、伝えないらしい。


 8月14日。

 夏休みに入って、生徒は部活動を頑張っていたと思う。

 全員の持久力、リカたんの近接戦闘も最初から比べると随分と良くなっている。

 村上の暴走もほぼなく、冷静に戦闘しているようだ。


 家に謎の封筒が届いたり、投げ銭で回復の泉関連の話があったりと面倒は増えた。

 つい昨日も、知らない番号から連絡があって着信拒否した番号も増えた。

 そんな日々の面倒をテキトーに相手しながら、1週間の宿泊準備をして学校に来ている。

 

「おはようございます、樋山さん」

「岩沢さん、おはようございます」


 上級探索者たちは大きな車で来た。

 俺が知っているスペックだった場合、俺の目の前にある車は10人乗りだ。

 運転していたのは『鉄壁』の一ツ橋醍醐(いつはしだいご)。


「生徒たちはこっちに乗せますね。武器とかはお願いします」

「はい」

「迷惑かけんなよ、樋山さんに」

「ダイジョブだって」

「リカたんサキたん、男どもを頼むぞ」

 

 生徒たちの移動手段を任せてくれと言われて任せたが、本当に生徒だけか。

 ニコニコしながら、車に宿泊荷物と乗り込む生徒たち。

 俺はいつもの黄色い車に武器を運んでいる。

 

「木口さん、運転頼むわ」

「私の車だから当たり前。それより乗るつもり?」

「こんな暑い中、バイク乗ってられないだろ」


 生徒が全員乗り込んだのだろう、ワゴン車は先に出発していった。

 後席を倒して荷物を積んでいるから、助手席に乗る。

 冷房をガンガンに効かせてボーっと待っていると、木口さんがようやく乗り込んできた。


「木口さん、遅いよ」

「コラボ相手の高校に連絡してた」

「へー」

「自分で聞いといて興味ないんだ」

「それより、出発しよう」


 出発して30分くらい、なんてことない話をしていたが飽きた。

 スマホを出して、ダンジョン配信サイトからコラボ相手の高校を探すと出てきた。

 今までのアーカイブが再生回数平均20回くらいだろうか。

 他にも色々あるのだが、どうしてこの高校だったのか?


「木口さん、何でコラボ相手はこの高校なんだ?」

「私の同級生が顧問してるから」

「へー」

「何か不満でも?」

「とくにはないけど」


 話し方が固かったかもしれない。

 思い返すと、少し低く「へー」と言った気がする。

 内ポケットから魔力潤滑タバコを出して、火をつけた。


「ちょっとタバコ」

「問題ないんですー。普通のタバコとは別物ですー」

「それでも問題」

「コラボ相手も問題だ」

「窓開けるならいい」

「はいはい」

「やっぱ不満あるじゃん」

「選び方に問題がある」

「はいはい、もう黙ってて」


 煙草を吸い終え、腕を組んでしかめっ面をしていたら寝ていた。

 起きたのは昼過ぎ、コラボ相手の高校に到着した時だ。


「岩沢さん、起きて!」

「ん? あ、もう着いた」

「起きて涎を拭いて」


 ぐっすり寝ていて、車のシートに涎を付けていたらしい。

 助手席のドアを開けて怒っている木口さんの後ろ、優し気な人が困り顔でいる。


「木口、そこまで怒鳴らなくても」

「コイツはそのくらいしても、聞かないから問題ないの」

「こんにちは」


 車から降りて、体を伸ばしながら挨拶をする。

 周りを見ると、俺を待っていたのか生徒5人と上級探索者たちが並んでいた。

 相手の配信部は4人で活動しているらしい。


「初めまして、山川義人(やまかわあきと)と申します。木口先生の同級生で、ダンジョン配信部の顧問をしています」

「岩沢仁です。日差しが強いので日陰で自己紹介し合いましょう」


 日傘を内ポケットから出して、さっさと向かう。

 みんな日陰に移動していく。ほかの部活動をしている生徒もいるが、自己紹介の時間くらいは良いだろう。


「ひろしから自己紹介」


 促すとひろしは素直に自己紹介してくれた。

 2年生の2人から1年生の自己紹介に移り、次は相手校の自己紹介になった。


「2年、西崎彪雅(にしざきひゅうが)です」

「2年、東谷雅史(とうやまさし)です」

「1年、北森宮子(きたもりみやじ)です」

「1年、南林雅樹(なんばやしまさき)です」


 気になったのが雅樹君ではなく、雅樹さんだということくらいだろう。

 全員が指導前の部員たちと同じくらいの強さだと思う。生意気そうではないところが別だな。

 

「後ろの人たちにも自己紹介お願いできますか?」

「樋山祐樹です。よろしくお願いします」

「権藤杏奈です、お願いします」

「北島翔琉(きたじまかける)です、よろしく」

「並木絵里(なみきえり)」

「一ツ橋醍醐、よろしく」

「木口、上級探索者とは聞いてないぞ」

「配信見てたら、わからない? 一応言っておくと、『教育者』『クノイチ』『ソルジャー』『鉄壁』『魔女』だからね」


 同級生の会話はともかく、この後で今日の宿泊場所に荷物を運んだ。

 運び終えた後、木口さんに今後の予定を聞くと。


「今日は休みで、明日から3日間ダンジョンで練習だったかな」

「それなら、向こうの生徒とこっちの生徒の問題点を見つける模擬戦をして、3日間の練習で上級探索者が指導するのはどうだ?」

「山川先生に聞いてみる」


 山川先生に聞いてみたところ、願っても無いことだと受け入れてくれたようだ。

 20分くらいで運動場に全員が集まった。

 生徒と先生の手には模擬武器がある。先生すら教えてもらう気満々だ。


「それで、どういう風にするんですか?」

「上級探索者にこっちとそちらの生徒を1人ずつ選んでもらい模擬戦して、指導してもらうのがいいと思います」

「わかりました」


 5人も了承してくれて、使っている武器ごとに選び始めた。

 樋山さんは長剣だが、西崎とひろしの片手剣使いを指導する。

 権藤さんは鎌を使うようになった、リカたん。

 北島さんは長剣を使っているから同じ武器を使う東谷、ついでの村上。

 一ツ橋さんは盾を使っている北森と鈴木。山川先生と木口さんもたぶん、この人だろう。

 並木さんは同じく杖を使う、南林。


「あの、サキたん忘れてないですか?」

「仁、お前が指導できるだろう?」

「そう、ですね」

 

 そうして上級探索者対生徒の模擬戦を開始した。

 そこで分かったのは、うちの生徒は訓練の結果が出せているということだ。

 一番分かる成長をしていたのは村上。

 最も持久力があり、粘り強く戦闘できていた。


「仁、そっちの部員は割と使えるな」

「そうでしょう。魔力操作はできませんけど」

「それで、何を指導すればいいんだ?」

「何でもいいですよ。ちょっとしたコツでも、基礎でも」

「他の奴らにも言っておく」

「お願いします、並木さん」

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