第15話


 〇


「はぁ。疲れたー」

「先生、今日は岩沢のおごり無いの?」

「無さそうだね、早く帰りなよ」

「はいはーい、早紀帰るよ」

「さよなら」

「はい、さよなら」


 木口は訓練用運動場の鍵を返すため、教職員室に向かった。

 鍵を返して、メールの返信だけでもするかとPCの電源を付ける。

 メールの返信というのは、コラボ依頼のお返事だ。


 生徒のためになるならいいのだが、どう考えても岩沢さん目当てが大半だ。

 そのため、断りのメールを返すのだが今日は違った。

 メールの送り主が探索者高校時代の同級生で、内容を読んでいくと、高校でダンジョン配信部の顧問になったらしい。


 通常であれば断るのだが、同級生ということで相談だけでもしてみようかと考えている。

 それに、高校のダンジョン配信部同士のコラボなら、順当なコラボ相手だろう。

 上級探索者チームとコラボなんてしたら、炎上しそうで恐ろしい。


 コラボ内容だが、その高校の近くにあるF級ダンジョンの攻略配信ということだった。

 どのくらいを目指して攻略と言っているのか分からないが、最終層までの攻略なら岩沢さんは断るだろう。

 そこら辺を詰めてから、岩沢さんには相談しよう。


 メールの下の方には、コラボするとしたら夏休みになるだろうと書かれてあった。


 〇


「はあ。何ですか?」

『樋山、そっちに7月下旬くらいに向かうから』

「チームの事務所で泊まる気ですか?」

『そう言ってるでしょ』

「泊まるとは言ってませんけど」

『仁が表に出てきたからね。会わないわけにはいかないんだよ』

「そっちもどうにかしろってことですか?」

『よく分かってるじゃん。日付が決まったら連絡してもらうから』

「会う日付ってこと……切った」


 『魔女』からの連絡だった。

 岩沢さんと会う日付を7月下旬以降で設定して連絡すると、事務所へ泊まりに来るという事か。

 A級探索者は横柄な人が多いな。

 一先ず、岩沢さんに連絡しよう。


 スマホから連絡先を探していると、着信があった。

 『魔女』からではない。


「はい」

『お、樋山? オレオレ』

「今時流行らないんですよ、そういうの」

『誰か分かるのか?』

「一ツ橋さんですよね」

『おお分かるか。この番号は並木から聞いたんだ』

「さっき電話したばかりですよ」

『横で電話してたからな、俺も便乗させてくれと言ったら、自分で確認くらい取れってさ』

「そういう所は、まともなんですね」

『ははは、それで俺も岩沢と会いたいんだけど、セッティング頼める?』

「同じ日にしておきますよ」

『じゃあ、よろしくね』


 『鉄壁』は『魔女』よりもまともだ。

 『魔女』よりも無理難題を言わないし、優しい。

 岩沢さんの予定を確認する前に、こちらの予定を調べると8月からが空いていた。


 部活動外部指導員の岩沢さんは、8月となると夏休みか。

 もしかしたら、合宿とかあったりするのかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る