第14話


 〇


 昼以降の指導も特に変わらず、権藤さん曰くリカたんも最低限の戦闘はできるということだった。

 今日の総括ということで、模擬戦を行う。


「リカたん、村上のペアで、まずは権藤さんと模擬戦をする」

「まず?」

「それが終われば、俺と模擬戦だ」


 リカたんは鎌ではなく、木の棒。

 村上も木剣、権藤さんは木の棒の二刀流だ。


「いくぞ、はじめ!」


 合図をすると、村上が先に攻撃をしかけた。

 村上は冷静で少し攻撃すると、途中で攻撃をやめて、リカたんが攻撃する間を与えている。

 少し危なっかしいところもあるが、そこそこ冷静だ。

 木剣が当たりそうだったり、体が接触したりというのはあるが、大きな問題はなく合図をするまで模擬戦は終わらなかった。


「止め!」

「こんな感じでいいですか、岩沢さん」

「はい、ありがとうございます」


 疲れた様子もない権藤さんに、リカたんは不満げだ。

 不満を露わにできるのは、ある程度以上に関係が深くなった証拠だろう。

 

 権藤さんに変わり、次の相手は俺だ。

 内ポケットから木刀を出し、構えると村上が正面に来た。

 さっき出来たんだから、今回も出来るよな。


「権藤さん、合図をお願いします」

「はい、始め」


 村上が先に攻撃を仕掛けてきたのは同じだ。

 ただ、攻撃が止まない。

 それに加えて、拳と足が出るようになっている。

 倒す気満々で模擬戦を始めたようだ。


 リカたんは村上の後ろで、いつ前に出ようか悩んでいるが、タイミングはない。

 しばらく村上の攻撃を防いでいると、リカたんは俺の後ろに移動しているようだった。

 村上の攻撃に合わせたいのか、タイミングを計っているようだ。


「もういいか、村上」

「これからだよ!」


 その言葉が合図になったのか、リカたんと村上は同時に突っ込んでくる。

 村上の方に1歩進み、上段からの攻撃を横に弾く。

 弾かれた木剣の横薙ぎを伏せて避けると、俺の背後で打撃音が聞こえた。


「ゔッ‼」


 予想通り、村上の木剣がリカたんに命中したようだ。しかも、結構いい勢いで。

 リカたんは予想外の攻撃を受け、倒れ込んだ。

 村上は木剣を握ったまま、ボーっと見ているだけ。


「村上、リカたん血吐いてんぞ」

「それなら、どうにかしろよ!」

「安心しろ、治せるから。この調子じゃ武器持たすことも出来んぞ」


 権藤さんも含めて、みんなが倒れたリカたんに集まっている。

 現状、鈴木が回復魔法をかけているようだが、効き目は薄いだろう。

 外傷の方によく効く魔法だ。


「ほら、リカたん。これ飲め」

「なにこれ?」

「ポーションだよ」


 内ポケットから出したポーションは、市販の物とは違いガラス瓶で発光した緑色だ。

 コルクを外して、差し出すのだが全く飲もうとしない。

 周囲の視線も冷ややかだ。


「何だよ?」

「岩沢、さすがにそれをポーションとは言えない」

「嘘吐け、ひろし。権藤さんは知ってるでしょう、これ」

「いえ、見覚えはありませんが?」

「リカたん、いいから飲め。これを飲むか、ただのポーション30本くらい飲むか。どっちかじゃないと治せないぞ」


 俺がそう言うと、渋々ガラス瓶を手に取り飲んだ。

 飲むとリカたんの体が緑色に一瞬発光した。リカたんは体を起こして動かしている。治ったのだろう。

 リカたんの体が発光したのを見て、権藤さんも気が付いたようだ。


「これって、上級ダンジョンの最後の休憩層にある、回復の泉ですか?」

「そうそう、止血魔法だけじゃ体が治らないからさ」

「でも、あれってダンジョンの外に出すと、効力が無くなるはずでは?」

「岩沢、その瓶が特別性なんだな」

「違うぞ、ひろし。魔力を流してやると維持できるんだよ」

「具体的にはどうするんだ?」

「その前に、問題を解決しなきゃならん」


 村上の方に向くと、アイツもこっちを見ていた。

 申し訳なさがあるのか、俺に噛み付いていたような雰囲気ではない。

 俺が顧問として何と声を掛けるか悩んでいると、ひろしが先に声を掛けた。


「村上、お前は岩沢が強かったこと、気に入らなかったんだろ」

「そうだよ」


 俺には理解しがたい考えをひろしは、理解しているみたいだ。

 昨日聞いたけど、分からない。


「村上、プライドが許さないとかそういうのは、もういいだろ。角川を怪我させてしまったんだから、考え方を変えろ」

「どうやって、何に変えるんだ?」

「プライドを気にせず教わる。戦闘以外で勝つことを目標にする。耐えられないなら嫌がらせで気を紛らわせる、こんな感じか?」

「そう言われて、はいってすぐには言えねぇよ」

「考えてみろよ。樋山さんとも権藤さんとも知り合いなんだぞ。岩沢の人脈を使えばいい」

「その通り、上級探索者の知り合いが顧問してるから、上手くいけばチームに紹介してくれるかもしれないでしょ」


 ひろしがしていた説得に、リカたんも加わった。

 それよりも上級探索者の知り合いがとか、俺も上級探索者だけど。


「それはいいかもな」

「チームに紹介してほしいなら、今よりも強くならんとな」

「あと、角川先輩すみません」

「いいえ。それより岩沢、私、体が動かしづらいんだけど」

「それはあれだ。泉のポーション維持するのに俺の魔力使ってるから、凸してきた6人みたいになってんだよ」

「なるほど、魔力を身体に流された状態ね」

「そういう事だ。それと、ひろし。これから村上の事を頼むぞ」

「おう、岩沢よりは指導できると思う」


 指導に関しては下手以外のなにものでもないから、仕方ないが早速嫌がらせの仕方を教えてるな。

 村上の顔にも、怪我したリカたんの顔にも笑顔があった。

 今後、上手くいくかは分からないが、村上は多少マシになってくれそうだ。


 〇


186:名無しの探索者

今日の配信ヤバいな


187:名無しの探索者

クノイチだったな


188:名無しの探索者

それもそうだけど


189:名無しの探索者

海外からも見てたやつ多かったな


190:名無しの探索者

それよか回復の泉


191:名無しの探索者

それなに、上級ダンジョンがどうとか言ってたけど


192:名無しの探索者

正確には上級ダンジョンと一部のC級だな


193:名無しの探索者

そこの最後の休憩層は薄緑色に光る泉がある


194:名無しの探索者

その泉の水が分かりやすく言うと、全回復ポーション


195:名無しの探索者

まじで


196:名無しの探索者

ダンジョンの外に持ち出すと消えてなくなる


197:名無しの探索者

ガラス瓶じゃないの、ひみつは


198:名無しの探索者

そうだとしても体動かしづらいのは使えない


199:名無しの探索者

でも全回復なら、使えるんじゃ?


200:名無しの探索者

国が出張るか


201:名無しの探索者

国じゃなくて、協会だろ


202:名無しの探索者

探索者チームもな


203:名無しの探索者

まあでも、教えるくらいじゃない?


204:名無しの探索者

教えられるのか、説明下手に


205:名無しの探索者

それがあったか

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