第11話


 〇

 

 昼休み、昨日はマジックバックに入れている作り置きを食べたが、今日は学生時代の様に学食に行った。

 学食では食券を買うタイプで、無難に醤油ラーメンを選んで呼ばれるのを待っている。


「お、岩沢」

「サキたん」

「それ、マジきもい」

「そういうとこ、リカたんそっくり」

「もういい。それより聞いた、森本に嫌がらせしたって」

「2年の授業だろ。もう聞いてんのか?」

「部活のグループで教えてくれた。高森が」


 高森って、先輩とか、さんとかつけてあげればいいのに。

 詳細を聞こうとしていると、醬油ラーメンができたようで取りに向かう。

 帰って来た時には、サキたんは友達とご飯食べていた。

 

「岩沢」

「おう、ひろし」

「一人寂しく飯食ってるな」

「そうだよ、サキたんが離れていってな。一緒に食おうぜ」

「俺も言いたいことあったからな。いいぞ」


 こういう時、ひろしは俺より強いな。

 寂しい俺の周りには、ひろしの友人たちが集っている。

 まあ、顔を見てわかるのは、寮で俺の部屋に来てピンポンダッシュする奴らだということだ。

 害無いからって無視してたけど、もしかして、ひろしの差し金か。


「岩沢」

「うん?」

「ラーメン食わねぇの?」

「食べる食べる」

「あのさ、森本の授業、6時限目が模擬戦なんだよ」

「へー」

「興味持てよ」


 そう言われても、この感じだったら防具付けて木剣打ち合う想像しかできないからな。

 生徒としては面白い授業かもしれないが、見ている方からすると、あんまり面白くない。


「森本が岩沢に何かさせようとしてるみたいなんだよ」

「へー。何かって?」

「分からん。でも言い負かしてただろ?」

「ひろしが証言してたな」

「俺も言ったけど、岩沢を目の敵にしても、不思議はない」

「何やらされても問題ないだろ」

「一応言ったからな」

「忠告どうも」


 とんがりボーイのひろし君が、俺に注意をしてくれる日が来るなんて。

 上機嫌に飯を食べ、4時限目、5時限目と見学を終えた。


 6時限目、2年生が訓練用の運動場で授業するというので、先に向かっていた。

 椅子に座って待っていると、朝同様に防具姿の生徒たち。

 その奥から、ジャージ姿の森本先生が出てきた。


「全員、模擬武器とってから2列横隊」

 

 森本先生が言うと、急いで鍵を受け取り倉庫に走っていく生徒たち。

 各々が使用している武器と同じものを取って来て、並んだ。

 

「各々、準備運動してから模擬戦する。横隊のペアで模擬戦、左端から順番だ。準備運動」


 落ち始めた陽が生徒たちの防具に反射して、見ているだけで暑い。

 椅子に座って、日傘をさしているが、暑い。

 ボーっと見ていると、準備運動が終わり、真ん中に一組のペアが出てきた。

 周囲に広がった他の生徒、近づいていく森本先生。


「笛で開始、笛で終了。魔法とスキルは禁止」


 言うとすぐに、笛を鳴らした。

 最初の模擬戦は、木剣同士。

 カンッ、カンッと小気味いい音を鳴らし、打ち合っている。

 どっちが勝ってもおかしくなさそうだな。

 ピッ、と笛の音が聞こえた。

 まだまだ、始まったばかりなのに、森本先生は何をしたいのか。

 

「もっと腰入れて打て」


 指導なら終わった後にしてくれ。

 俺も生徒も間違いなく、そう思っている。

 どうなるのか見ていると、森本先生がこっちを向いた。

 

「うーん、分からんか」


 見ているのは間違いなく俺で、瞳は爛々と輝いている。

 自信の表れだろう。

 ジャージの上着のチャックを上げながら近づいていくる、森本先生。

 

「岩沢さん、俺と模擬戦をしませんか?」

「しません」


 予想外の答えだったのは間違いない。

 生徒と先生の顔は一緒だ。

 できない理由もあるから、問題ないと俺は思っている。


「どうして、できないんでしょうか? 生徒に見せてやりたいんですが」

「無理です。魔力が水なので、漏出を防ぐための魔力が循環してるんです」

「え、あの、理由がわかりませんが?」

「言ったままなんですけど」

「いえ、それが分からないんです」


 互いに首を傾げて、授業が止まった。

 そこで動き出した生徒が1人。

 ヘルムを取ると、リカたんだった。

 俺の方に歩いて来て、見下ろしながら腕を組む。

 態度が、私に従えと言っている。


「リカたん」

「それ、マジきもい」

「何で来たんだ?」

「アンタが何言ってるか分からないから」

「どこら辺が分からん?」

「魔力が水なのは知ってる。漏出を防ぐために魔力を循環してたらどうなるの?」

「ずっと身体強化してる」

「それ何? スキル?」


 そこからになるのか?

 でも、俺は説明が下手だからな。


「魔力を循環していると、体が強くなる」

「強くって?」

「樋山さんとの模擬戦の時みたいに、動ける」

「それが身体強化?」

「そう」

「言ってくるから、待ってて」


 リカたんが森本先生のところに行き、話し合っているのを見ながら、今度の配信で言ってみるのもいいかもしれないと考えていた。

 そもそも、我慢強く訓練できる人しか出来るようにならないことだが。

 会話が終わると、リカたんが森本先生と一緒に来た。


「岩沢さん、生徒にでまかせ言うのはやめてもらいたい」

「いや、事実なんですけど」

「他人が知らないからと、言いたい放題」


 確かにそうだけど。

 実際そうなんだから、許してくれ。

 俺の心など気にせず、森本先生は突っ走る。


「一度、模擬戦をしましょう」

「無理です、森本先生じゃ」

「樋山さんと模擬戦してたでしょう?」

「樋山さんはB級探索者だからできたんです、森本先生はD級くらいでしょう?」

 

 魔力を使わない模擬戦はできない。魔力を使わずに戦闘が無理だから。

 ただ、魔力を使った模擬戦はできる。

 力の調整もできるが、面倒だから言うつもりはない。


「いーじゃん、授業進まないからやってよ、岩沢」

「リカたん」


 仕方なく、俺は訓練用運動所の中心に向かった。

 手には木剣。

 相手は森本先生。

 ルールは魔法もスキルもあり、先生は。

 俺は今の状態で戦闘するらしい。

 合図はリカたんがする。


「はじめ!」


 リカたんの合図で森本先生が走ってきた。

 その速度は下級探索者の中では、ダントツだ。

 そういうスキルでもあるのだろう。

 自信の源が、この速度だったと分かる速さだ。

 

 真っ向切りしてくる木剣に、下からテキトーに切り上げを合わせる。

 俺の魔力に包まれた木剣が、強化された木剣と打ち合い、森本先生の木剣は、砕け散った。

 先生の顔に剣先を向ける。


「先生、案外速いですね」

「お、おう、そうだろう」


 魔力が流せるようになったら、もっと使えるスキルになると思う。

 それをこの先生がするとは、思えないが。


「よし、授業再開するぞ」


 腰を入れる云々は、全く説明せずに授業は再開された。

 本当にこの人は何がしたかったのだろう。


 ゴタゴタした6時限目も終わり、校長室に向かった。

 入ると珍しく先生は仕事をしている。


「どうだった?」

「5年くらい授業受けてれば、マシな探索者になると思う」

「3年でどうにかするには?」

「近接戦闘をある程度できるようにする、逃げるための持久力を鍛える、くらいかな」

「他にはないのか?」

「最低限そのくらいだと思う」

「そうか、それならダンジョン配信部で実践してくれないか?」

「授業する前に、ダンジョンで使えるようになるか配信部で確認か?」

「そうだ。無理でも配信ネタになるだろう」

「校長に頼まれたって言うぞ」

「いいぞ」

「わかった。配信部に言ってくる」


 校長室を出て、部室に向かうと木口さんもいて、ダンジョン配信を見ていた。

 その配信者はダンジョン配信で人気らしく、同接が5万人超えている。

 ただ下級探索者なのか、戦闘はあまり上手くなかった。

 いや、下手だ。

 ただ、配信が上手いから視聴者も多いのだろう。

 うちとは大違いだな。

 配信も戦闘も下手だ。


「全員聞いてくれ。校長先生からお願いがあった」


 聞いてくれ、といった時にはだれもこっちを向いていなかったのに、校長先生と言うと、こちらを向いた。

 俺の立場が分かる反応をしてくれる。


「2日間、授業を見てきて足りない部分があると感じた。それを修正する指導を配信部に行う」

「え? 私たちが指導を受けるの?」

「そういうことだ、授業にこれから取り入れるかもしれないものを、配信部が先に受ける」

「岩沢は説明下手じゃん」

「ひろし、樋山さんには声を掛けるから、明後日から練習する。だから明日は休みだ」

「イエ―イ」

「その様子は配信するから」

「頼むぞ」


 その日の夜、樋山さんに連絡をしたのだが、土日は空いていないようだった。

 しかし、俺の説明下手を知っているため、誰かほかの人を送ってくれるらしい。

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