第6話
7時過ぎ、樋山さんは戻って来てないが、配信を開始した。
三脚にカメラを載せて、俺は昨日同様にボーっとしている。
現在1層だが、魔物が来ても生徒たちが気分転換に倒してしまう。
「岩沢さん、私は昨日動かせましたけど」
「それなら、ずっと動かして」
「具体的にどのくらいですか?」
「ずっとは、ずっとだけど?」
「ああそう、説明下手だったっけ」
〈ひやまー〉
〈せんせーこまってんぞ〉
〈俺もわかんねー〉
〈翻訳頼む〉
〈外国語ならいいんだけど〉
〈通じてるのが逆に問題〉
〈知ってるから通じない〉
〈認識の違い〉
8時、求めていた人が来た。
樋山さんは来て早々に、木口さんの疑問に答えてくれた。
分かりやすくが、ここまで難しいとは。
「えーと、そのままで間違いないです」
「ずっと続けるってことですか?」
「そうです。付け足すとすれば速度を上げていく、くらいですね」
「速度を上げて、ずっとしていると、どうなるんですか?」
「魔力の状態が変わります。ダンジョン行かない時はずっとしているのがベストです」
樋山さんの説明で、ようやく納得してくれた。
説明下手な俺だから、言ってることをそもそも信じていなかった気がする。
「状態が変わるのに、どのくらいかかりますか?」
「1年くらいです。砂になるのが短くて2年くらいですね」
「長いですね」
〈俺もまだまだ〉
〈俺は砂〉
〈なら、俺は水〉
〈ガチで砂〉
〈石〉
〈わからん〉
〈自覚できん〉
〈みんなすげぇな〉
「あ、そう言えば岩沢さん、聞きたいことあったんです」
「何ですか、樋山さん」
「魔力が水になった頃、すごい困ってませんでした? 指導して思い出したんです」
「ああ。あの時は、魔力の漏出が止まらなくて、使わなくても減ってたんです」
「泥でも漏出は起こりますけど、そんな感じですか?」
「泥より漏れます。使ってないのに減って、漏れないようにするだけで時間がかかりました」
〈ほんとか〉
〈確証がないな〉
〈岩沢つよかったんだっけ〉
〈知らない話だからな〉
〈コイツに挑むなよ〉
〈見てみたい気もする、実際に〉
それから1人ずつ、魔力を動かせるようになっていった。
リカたん、ひろし、はるき、サキたん、村上の順だ。
11時には全員ができるようになって、6人は休憩することになった。
「岩沢、画が変わらないから、何かしてよ」
そう言われたから、俺と樋山さんには休憩がない。
俺は今、木刀を持って樋山さんと向かい合っている。
樋山さんの手には木剣。
「最初、本気で来てもらえませんか。岩沢さん」
「いいですけど、すぐ終わりますよ」
「おい、岩沢。それは言いすぎだろ」
「高森くん、それくらいの差はあるんだよ。合図して」
「はい、はじめ!」
ひろしの合図で始まったが、案の定すぐに終わった。
始まると同時に魔力を循環、俺を捉えた樋山さん。
しかし、その後は俺が近づいて木刀を振り下ろそうとするまで気がついていない。
振り下ろしたときに、急いで防御したのだが力で押し込む。
「馬鹿力ですね、ほんとに」
「水くらいになったら、こんなものですよ」
「今度は打ち合ってください」
「ひろし?」
「はい、はじめ!」
それから、10分もなかっただろうか。
樋山さんが飽きるまで、ずっと打ち合いをしていた。
どちらとも魔力を使っている。模擬戦ではない。
得物を強化、破壊されないようにして打ち合った。
「ありがとうございました」
「こちらこそですよ、樋山さん。人相手は久しぶりだったんです」
その後、ボーっとしている6人を練習させて12時で昼食になった。
配信は一旦切って、昼食後に再開予定だ。
「見てなかったけど、どんな感じなんだ?」
「岩沢さん……」
「俺は、結構いい速度だぞ」
「高森くんは気が逸れると動きません。角川里香さんは意識を割いても動いています」
「リカたん、すごいな」
すごいと思って言ったのに、リカたんの顔は不満げだ。
それについて聞くべきか迷って、やめた。
呼び方は変えるつもりがないからな。
「他はどうですか?」
「木口さんももう少しです。鈴木くんは高森くんと同じ。角川早紀さんと村上くんは速度を上げたいですね」
「これ以降は各自で練習できそうですね」
「そうですね。岩沢さんほど感覚が離れている人がいないので、教え合えば早そうです」
「樋山さんもそういうこと言うんだー」
恨めしそうに言っても効いた感じはない。
苦笑いして、食事の手が止まったくらいだ。
俺自身もなんだかんだ楽しく食事をしていると、ダンジョン入り口の方から同業が入ってきた。
ここのダンジョンに旨みがあるのは、初心者だけだ。
わざわざ来たということは、配信を見てきたのだろう。
「樋山さん、頼みます」
「そうですね。こういう場合は名の知れてる方が相手を御しやすい」
そういう事じゃなかったんだけど。
説明下手な俺が話すよりも、説明上手な樋山さんの方が適切だと思っただけだ。
確かに、説明上手ということで名が知れてるんだろうけど。
「こんにちは」
「ああ、いたいた。樋山いたぞー」
入り口からゾロゾロと6人の探索者が歩いてきた。
D級くらいだろうか。
しっかりと防具を着ており、質も良い。
ただ、面倒ごとを起こしそうな雰囲気があるのは問題だ。
「どうしました?」
「いや、SNSで聞いたんですよ。ここでしてるって」
「ええ、それで?」
黙って聞いていたが、配信者として逃すべきでないところだと分かった。
静かにカメラを持って、黙って配信を始める。
ひろしの顔アップから配信を始めた。
「俺たちも指導してもらおうかと思ってね」
「そうですか。私は部活の指導に呼ばれただけであって、それ以外の方に指導するわけではありませんよ」
「そんなケチクセェこと言うなよ。あんたもソコソコ以上の腕、ある方がいいだろ?」
樋山さんの後ろにいる俺たちを見て、言ってくるが言うほどの腕はない。
俺より弱いし、木口さんも頑張れば勝てそうだ。
鈴木は頑張れば勝てる。無理でも俺が勝たせる。
「いえいえ、縁ある方に呼ばれてここに来たんです。関係もないあなた方に教える義理などありませんよ」
「おいおい、そんなこと言うなよ。同じ探索者だろ」
「もういいでしょう。我々は帰りますから、教えるも無いですよ」
「おい。この人数相手にあんまデカいこと言うなよ」
「はは、君たちこそ、こっちにはB級探索者が2人いるんだよ」
「それに今、配信してるからな、お前らの迷惑行為」
「それなら、お前らもダンジョンで、練習なんてすることないだろ?」
「傍から見てるだけなら、俺は無視してけど。図々しく樋山さんにお願いするから、問題にしたんだよ」
俺はカメラを向けながら言うが、少しも気にした様子がない。
6人いるから気にもしていないのか、群れているから麻痺しているのか。
それから5分、樋山さんは交渉を続けているが6人はグダグダと残っている。
食事も全員終わったため、木口さんが帰る準備をさせている。
配信コメントでは個人の特定が始まり、コメントが加速していた。
特定の結果、6人組みのD級探索者チームらしい。
「もういいでしょう、岩沢さん。教えてください」
「俺ですか? 樋山さん」
「はい、魔力操作を教えてやってください」
俺を指名するということは、教える以外のものを求めているのだろう。
カメラをひろしに渡して、6人に近づく。
俺が近づいていくと、6人は不満そうだ。
「おい、俺たちは樋山に頼んでるんだが?」
「安心しろ、樋山さんより分かりやすく教えてやるから」
「どうやって?」
「全員で手を繋いで円になれ」
俺が両手を差し出すと、指示通り円になる6人。
案外素直で、指導してほしいだけの厄介な奴らだと分かった。
全員が手を繋ぎ、俺も入って7人で円になる。
「全員繋いだな」
「つないだ」
「これから両手に魔力を流す。それで流れる感覚が分かるはずだ」
「おい、俺たちの時もそうしてくれよ。そっちの方が早かっただろ」
「ひろし。リカたん、一発殴っといてくれ。よし、流すぞ」
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