第3話
〇
月曜日、日曜日の部活は宿泊がなくなった為、なかったが今日はある。
15時20分くらいに学校に行き、教職員室で部室の鍵を貰う。
ダンジョン配信部の部室は大きい。
5人しかいないのに、教室1個分の大きさがある。物置を兼ねているが。
初日は見ていなかったが、後ろの黒板に現状の最高同接が掛かれており、その横に『目指せ、倍』と書かれていた。
現状が100人だから、昨日俺が見ている時が50人。越えられそうもないな。
端に片付けられていたパイプ椅子に待っていると、15時30分チャイムが鳴った。
それから5分、もう一度チャイムが鳴ると、部室の近くも騒がしくなり始める。
最初に部室を開けたのは、1年の黙った女だった。
チャイムが鳴って2分くらいで来ているから、真っ直ぐここに来たのだろう。
会釈をして、適当な場所で座って他の部員を待っている。
「鑑賞会やー」
「イエーイ」
「あ?」
「岩沢さん」
ひろし、うるさい1年男、リカたんと鈴木陽己。
部員全員が揃った。
ダンジョン配信部は放課後、どういう活動をしているのか。
「よお、放課後はいつも何してるんだ?」
「いつもは他のダンジョン配信を見て、取り入れようとしてます」
「そうか、鈴木。頑張れよ」
「いやいや、あんたも参加するんだよ」
「顧問でしょ」
そういえば、そうだったか。
というか取り入れようとして、カメラを無視する動きをするなんて下手だな。
ただ、暇つぶししてるだけじゃないか?
「それより、お前ら鍛えた方がいいんじゃないか?」
「どうやって?」
「魔力を操作したり、近接戦の練度上げたり」
「近接戦は授業でやってるよ」
「魔力操作は?」
「魔法とかスキルとか使って操作の練習してる」
「違う」
「なにが?」
「それは操作じゃない。魔法とスキルに操作してもらってるんだ」
俺の説明に部員は困り顔だ。
知らないのなら分かるが、探索者高校の生徒はこれも知らんのか。
知り合いはみんな、当たり前に操作できるんだが。
「それは本当? 岩沢さん」
「ああ。知り合いは使ってるぞ」
「その練習する配信しましょうか」
知らぬ間に木口さんが来て、話を聞いていたところから、あれよあれよと準備が進み、配信をすることになった。
話を聞くと、どうやら配信は月1回しかしていないらしい。
チャンネル登録者は0名で、配信サイトのサブスクで見ていると聞いた。
「登録者限定配信しますね」
「0人じゃないのか?」
「この前、増えたんですよ」
「へー」
木口さんが三脚にカメラをセットし、手を挙げた、配信開始したようだ。
「報告しますね」
リカたんがSNSに配信開始の報告をした。
カメラ外から見ているから分からないが、視聴者が増え始めたのか木口さんが興奮している。
ワクワクが体から溢れてるよ。
「同接1万いきました!」
0人から1万人も増えてんのか。
トラブルの起こる配信は人気らしい。
実際、協会が依頼した探索者は魔物の間引きをテキトーにしてたみたいだから、トラブルが起こったんだ。
生徒がワーウルフを倒せないのは驚きだったが、人気が出たから問題ないな。
「おい、岩沢。さっきの説明してくれよ」
「わかった」
カメラ外から魔力についての解説をする。
「生徒が知らなかったから言うけど、魔法とかスキルとかで魔力操作は、あんまり上手くならない」
「なんでだった?」
こいつ問いかけて、疑問に思う視聴者の事を考えてる。
成長が早いじゃないか、ひろし。
「自動で魔力使ってくれるからな。自力で操作しないと」
「自力で操作できると、どうなる?」
「ん? 強くなれる、今より確実に」
「それじゃ、そのやり方、教えてくれ」
「まずは、魔力がどれか自覚する。魔法やらスキルやら、持ってるんだから分かるだろ」
生徒たちは立ち上がり、目を閉じて集中している。
眉間にしわが寄っているのを見ると、魔力を自覚できていないらしい。
配信の画が変わりないものになって、視聴者はたいそう暇だろう。
「わかんねぇぞ」
「そうか、次のステップは魔力を体中に流す。次は流しながら漏出をなくす。そして流れを速くする」
「早すぎ、やり方教えてよ」
「教えたろ?」
「岩沢さん、視聴者からも丁寧に教えろ、と」
「そう言われても、血流を感じ取れ、みたいなもんだしな」
「それ、無理だろ」
生徒と先生がこちらを見てくるが、それ以外の教えようがない。
俺自身は早々に自覚できたが、知り合いも魔法やスキルを使っていくうちに自覚できたという人いる。
個人差があるのかもしれない。
「というか、そもそも魔力流れてないから分かりそうなもんだけどな」
「どういうことだよ? 血流感じ取るんじゃねえのか」
「体中に魔力があふれてるから分かるだろ」
「分かんねぇよ」
「説明下手なんですね。岩沢さん」
マズイ。鈴木からそんな言葉を聞くとは。
優しい鈴木を失望させてしまう。
鈴木に失望されるのは、堪えるだろうな。
「安心しろ鈴木。教えるのが上手い知り合いを週末に呼ぶ」
「週末に配信します。さよなら」
「バイバイ」
「それでは」
「ありがとうございました」
「ハイ終わり」
配信は20分くらいで終わった。
そう考えると生徒たちは案外、魔力を自覚しようと必死だったのかもしれない。
終われば、元の鑑賞会をすることになったのか、忙し気に準備をしている。
テレビに何かを繋ぎ、スマホを操作すると、スマホの画面がテレビに映った。
見る動画は土曜日の配信だった。
アカウント名、ダンジョン配信部で土曜日の配信の再生回数は200万回。
めちゃくちゃ人気だ。
「再生するよ。高森の顔引き攣ってるところから」
「おい!」
リカたんは高森ひろしの文句を無視して、再生を開始した。
顔引き攣っている所というのは、ワーウルフと出会うところからのようだ。
内ポケットに手を伸ばして、ノンアルコールビールを飲みながら見る。
少しして俺が出てくると、コメントの大半が顔見せろだった。
ワーウルフ登場から同接が増え、この時の視聴者数が5万人を超えている。
ひろしとの会話は、そんなことしてる場合じゃないと呆れられているようだ。
俺が戦うところを初めて自分で見たのだが、速くてコマ送りになっていた。
そこまでではないと思っていたのだが、案外速い。
しっかりと見ていたのだが、気付いた時には鉄刀を振り切っている。
「俺、速くない?」
「知らなかったのかよ!」
ひろしに言われるが、カメラで捉えづらいほどだとは思っていなかった。
この配信で良かったところは、カメラが少し下に向いていて、俺の顔が見えていないことだったな。
〇
120:名無しの探索者
配信部の最新みたか?
121:名無しの探索者
見たけど、俺はわかんなかった
122:名無しの探索者
C級以上の奴は知ってるぞ、たぶん
123:名無しの探索者
何言いたいのかわかんなかったけど、たぶんそれ
124:名無しの探索者
協会が贔屓してるってこと?
125:名無しの探索者
C級になるための選考項目の一つだよ
126:名無しの探索者
ちょっと違うけど、そんな感じ
127:名無しの探索者
下級探索者はいらねってか
128:名無しの探索者
そこまでの実力無いだろ
129:名無しの探索者
言いすぎだけど、そんな感じ
130:名無しの探索者
俺は分かったぞ
131:名無しの探索者
あれで分かるんなら、感覚派だな
132:名無しの探索者
それより誰連れてくんだろ?
133:名無しの探索者
俺より説明上手い奴だっけ
134:名無しの探索者
大抵の奴がうまいわ
135:名無しの探索者
ちょっとこれみて→
136:名無しの探索者
B級探索者樋山の週末講習中止のお知らせ
137:名無しの探索者
さすがに
138:名無しの探索者
実力はそうだけど
139:名無しの探索者
樋山の中止って初だろ
140:名無しの探索者
選り好みしたのか
141:名無しの探索者
樋山の可能性が高まってきたな
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