第2話


 ひろしとリカたん。

 名前は知ったが、本当にひろしとリカたんなのか?


「おい、岩沢。指導員なんだから、問題あったら指摘してみろ」

「ファイアボールって、もっと強いかと思ってた」

「あれが普通です」

 

 リカたんが言うには、普通だそうだ。

 俺の知ってるファイアボールは、大玉ころがしの玉くらいあるんだが。

 野球ボールくらいしかなかったぞ。


「突進避けろ」

 

 そう言うと、一層不機嫌そうな顔になる、ひろし。

 その様子をしっかりとカメラに収める。

 

「無理だったろ」

「いつも、どうやってんだ?」

「ぼくが、ガードしてます」

「頑張り者だな、鈴木は」

「ひろし、リカたんにお礼言っとけ」

「マジきもい」

「え、リカたんじゃないの?」

「リカたん、アリガトー」

 〈調子乗ってこけたぞ〉

 〈名前知らない疑惑〉

 〈コメントで出てきた名前だけ〉

 〈指導員って?〉

 〈外部の人雇ってる〉

 〈せんせーは?〉

 〈顧問?〉

 〈リカたん〉

 〈鈴木推し発覚〉


「悪い悪い、気になったんだけど、他の部員も似たような感じか?」

「似たようって?」

 

 嚙みつき癖のあるひろしは、イライラが治まらないみたいだ。

 カメラを睨みつけてくる。

 

「そのまんまだ、ひろし。コボルト2匹相手だと、対応できないのか?」

「普通です」

 

 リカたん、そうなのか、普通なのか。

 その後、戦闘は無く3層に到着した。

 うまく進んでいたのだが、ダンジョンの様子がおかしい。

 魔力量の多い魔物が、少しずつ近づいているみたいだ。


「3層に入りました。ここからはコボルトが集団でてきます」


 さっきよりも緊張感のある5人。

 後ろに木口さんがいつでも出られるように、周りに気を配っている。

 しばらく歩くと、件の魔物と出会うことになるはずだ。


「木口さん、ワーウルフ倒せる?」

「1人では難しいかもー」

「アイツらと一緒に倒せる?」

「当たり前だろ。6人いれば倒せる!」

「そうか。1匹くるから気を付けろよ」


 木口さんの軽い返事とひろしの活きのいい返答に安心したのだが、周囲は現状を受け入れていないのか、笑っている。

 木口さんも俺の後ろで笑っているようだった。


「さすがに、嘘が過ぎる」

「それで、配信が面白くなるとでも思ってんのかよ!」

「そうか。まあ、倒してくれるんならそれでいい。コボルトに倒されそうだった奴が、出来るとは思えんがな」


 チャットも俺の発言に大盛り上がりだ。

 〈噓乙〉

 〈素人め〉

 〈甘いは若造〉

 〈キチィ〉

 〈来れば終わりだ〉

 〈最後の配信(笑)〉

 視聴者数も少し増えており、50人いる。

 同級生が見ているのだろうか。


 それから少し進むと、音が聞こえてきた。

 誰もが聞こえただろう。

 ザッ、ザッと足音が聞こえてくる。

 

「何か聞こえたけど……」

「ひろし構えろ。来るぞ」

「え?」


 生徒たちの前方に、2mくらいのワーウルフがいた。

 きれいな黒い毛並み、爛々と光る黄色い目、頭から鼻にかけて赤い毛の筋がある。

 〈キタっ〉

 〈ワーウルフ〉

 〈赤い〉

 〈赤いぞ〉

 〈強化種〉

 〈不正がバレたな〉

 〈探索者協会に報告〉

 〈あー、リカたん〉


「ひろし、頑張れ! 木口さん、頑張れ!」

 〈おまっ〉

 〈空気読めよ〉

 〈もう終わりだ、この配信〉

 〈ひろしはむり〉

 〈頑張れは酷〉

 〈オワタ〉

 〈マジでヤバいけど〉


「みんな、ゆっくり下がりなさい。背を見せたらダメ」

「木口さん、頑張って」

「何でそんなに余裕あるの?」

「6人で倒すんだろ?」

「そんな冗談、今は必要ない」

「ん? 倒せないわけないよな。あれ」

「いや、無理だから」

「へっ? 嘘吐け。高校生の時、倒したぞ。あの赤い」

 

 冗談ぽさがあるように、軽く言っているのだが、木口さんは訝し気な顔で見てくる。

 そんな中でも部員はゆっくりと下がっており、俺と木口さんに並んだ。


「ほら、倒してくれ。岩沢」

「いや、いいけど」


 顔が引きつっているひろしに肩を叩かれ、リュックの紐を引っ張られた。

 仕方なく、リュックとカメラをひろしに渡す。

 ひろしは緊張している顔でカメラを手に、こちらを見てきた。

 そこまでか?


「お前ら、ワーウルフくらい倒せないと、探索者として食っていけないぞ」

「いいから、倒せよ」

「わかったよ。ドロップアイテム、俺が貰うからな。後で欲しいって言われても渡さないぞ」

「いらねぇよ」

「コイツの革で作るボアジャケット、滅茶苦茶良いんだぞ」

「知らねぇよ、行けよ」


 ワーウルフに対して、1歩踏み出すと獲物を俺と定めて踏み込んでくる。

 武器も持っていない手には長い爪。

 魔力を体と武器に流す。


 爪が届く前に片を付けないと、ジャケットに傷がついてしまう。

 近すぎて武器が抜きづらい為、左手で鞘ごと持って柄頭で腹を殴る。

 足を開き、鉄刀を抜き、強化して振り下ろす。


 ワーウルフは体を袈裟に分断され、ボロボロと空気中にとけていく。

 体がなくなったところには、1匹分の皮。

 運がいい。知り合いにジャケット作ってもらおう。


「渡さないからな」

「いや、いらないけど……」

「それと、顧問として決定した。今から帰る」

「なんで? ワーウルフは倒したし問題ないだろ」

「ワーウルフを倒せない奴が、ワーウルフ出るとこ来るな。それに不正の報告に行かないとな」

「そうですね。今回は保護者への連絡もありますし、帰りましょう」

「マジで、先生」

「マジです」


 それから受付にて、3層でワーウルフが出てきたことの報告。

 生徒たちは公共交通機関で、帰って行った。

 俺と木口さんは学校に戻ってきて、保護者に連絡中だ。

 いや、俺はソファに座って聞いているだけだが。

 5人全員の親と木口さんの話を聞いていたのだが、探索者の親というものだからか、返事は予想の斜め上だ。


「安全に配慮しきれず、申し訳ありません」

 そう、木口さんが言うと。

『探索者なのですから、危険で当然』

『問題ありません。逃げ方だけ教えておいてください』

『倒れたら、それまで』

『倒せるように、教育してください』


 探索者高校生徒の親に感覚がズレている人は多そうだ。


「面白い、保護者達だな」

「岩沢さん、今まで気にしていませんでしたけど、探索者免許見せてください」

「はい」

 

 財布から免許証を出すと、こちらの顔をまじまじと見てきた。

 木口さんは、視線をソファ左側の武器に向ける。


「そういえば、武器そのまま持ってましたね」

「だから、何で免許証見せろなんて言うのかと思ってた」

「すみません」

「探索者高校って、ひろしくらいで成績良いのか?」

「将来有望で期待されるレベルです。私もそうでしたが」


 俺の知ってる探索者高校の生徒は、まだマシだった。

 フラフラしてる時に会ったんだが、今は3年生だろうか。

 探索者高校ごとに教師の質があるのかな。


「あのレベルだと、暮らせなくないか?」

「いえ、普通の暮らしはできるはずです」


 俺の考える普通とは、違うのかもしれん。


 〇

 

110:名無しの探索者

おい、試しにここに登録して今日の動画みてみろ

 

111:名無しの探索者

それ、無断転載されてたぞ

 

112:名無しの探索者

SNSに上がってたけど、さすがに嘘だろ

 

113:名無しの探索者

CGとか、AIが補正してくれてとかだろ


114:名無しの探索者

謎の新星 岩沢

 

115:名無しの探索者

こういうの待ってた


116:名無しの探索者

実際のとこできんの?


117:名無しの探索者

出来ないことはないんじゃないか、S級なら

 

118:名無しの探索者

でもあんなS級いたか?


119:名無しの探索者

間違いなくいない


120:名無しの探索者

謎の新星 岩沢


121:名無しの探索者

リカたんが生きててよかったぁぁ


122:名無しの探索者

だれ?


123:名無しの探索者

配信部の子だろ


124:名無しの探索者

それより、B級探索者樋山の週末講習って何するんだ?


125:名無しの探索者

先生はC級以上対象だけど、問題ないか?

 

126:名無しの探索者

選り好みして教育者なんて名乗るなよ

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