第25話 親子の縁は...
「此処迄、来るともう帝国領ね」
「そうだね、帝都まであと少しって感じだね」
とは言っても、帝国の端っこなので帝都まではあと3週間は掛かるわね。
セレスくん曰く、此処からは、海の物じゃ無くて山の物が美味しいんだって…特に猪を使った鍋が絶品らしいわ。
「猪なんて何処でも同じじゃ無いの?」
「違うよ、帝国近辺の猪は大きい個体が多くて油が乗っているんだ!尤もカズマ兄さんから聞いただけだけどね…俺も初めてだから、楽しみなんだ」
まぁ、料理バカのカズマが言うなら間違いないわね。
「そう、私も楽しみだわ」
「うん、狩ったら腕によりをかけて作るからね」
セレスくんって偶に夫じゃなくて奥さんなのかな?
そう誤解しそうになるわね…あと、幸せ太りで太っちゃいそうだから気をつけないとね…
◆◆◆
冒険者ギルドの掲示板を見ている時に、セレスくんの顔色が変わったのよ…
「静子さん…これ」
驚いた顔でセレスくんが指さした先にはゼクト達が竜のスタンピートを止めるのに失敗して大怪我をした…そういう貼り紙がしてあるわ。
「ああっ、あの子、失敗しちゃったのね」
冷たいようだけど『勇者』になった時から半分他人だし、こう言う事も、覚悟していたわ。
勇者を含む四職の支度金は『縁切り』の意味も含まれるのよ。
一度、勇者を含む四職になったら、もう家族じゃ無くなったも同然。
勇者として活躍して魔王に勝てば1度位は凱旋パレードで帰ってくるけど、その後は貴族の令嬢か王女と結婚して縁がきれる。
魔王に負ければ殺されるから、もう会えない。
だから、あの村からゼクトが旅立った時から、ある意味もう親子じゃないわ。
これは仕方が無い事なの。
その事は、私達両親にも説明され、本人にもしっかり説明される。
そして、夫のセクトールもゼクトもその事をしっかり確認して、サインをしている。
だから、ゼクトは私の子じゃなく、正確にはもう『世界の子』みたいなもの。
だから、家族として母として踏ん切りをつけたのよ。
暫くは涙が止まらなかったけどね...
『死んでも仕方が無い…この子が選んだ道だから』
勇者だから、それも当たり前。
『命を常に危険に晒し命がけで世界を救う』
それが勇者だから…
勇者が死なないなんて誰が言っているのか…
本当に馬鹿だわ。
勇者に近い、四天王との激戦…それに勝利して魔王と対決。
どう考えても勇者の方が分が悪いわよ。
そして、今の魔王はルシファード…巧みな戦い方をする強者。
そして、四天王には、あの恐ろしい『剛腕のマモン』が居る。
多分、息子達に未来はないわ。
だから、勇者にならない方が良い…そう私は伝えた。
魔王城につくまで、少しでも良い生活をさせたくて、セレスくんに頼んだ…
もし『勇者になりたくない』
そう言ったら、どんな手を使ってでも逃がすつもりだったわ。
だけど、ゼクトは勇者になる道を選んだ。…私にはもう何もしてあげられる事は無いわ。
「静子さん、心配じゃ…」
「気にしても仕方ないわ、ゼクトは成人しているし、勇者なんだから、自分で頑張るしかないもの」
そう、息子が戦う相手は、魔王。
最強の敵。
竜のスタンピードを今、止められないようなゼクトに未来はきっと無い。
命についてはしつこい位に話した。
『死ぬ事もある』それは冒険者だったから、息子のゼクトに幾度と話したわ。
それでも、冒険者、勇者になる道を選んだんだから…こう言う事もあるわ。
勇者じゃなく冒険者でも『冒険者の命は自己責任』そういう言葉がある。
「そう、その割には顔色が悪いよ…」
「そうね」
多分、セレスくんが思っているのと違う。
私は…ゼクトの傷が重症だけど治癒が可能…それが悲しかったのよ。
治ったら、きっとまた戦わされる。
歩けなくなっても、片腕が無くなっても『生きている方が良い』
だから…大怪我により再起不能を、一瞬だけど望んだの...
「だけど、静子さん…」
「安心して治療で治るみたいだわ」
「そうだね」
そのまま動けなくなれば良かったのに…
母親としてそう思ったけど…
それは人として言えないわね。
貴方を救える者はこの世にいない。
『勇者』だから…ね。
「それじゃ、セレスくん、猪鍋食べに行こう…さっきお店があったから」
「手作りしたかったど、専門店も有りだね、それじゃ行こう」
「うん」
頑張りなさいね…ゼクト…そして...惨めでも良いから、生きてね
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