第23話 漆黒の英雄とS級冒険者


セレスくんと二人で冒険者ギルドに来たのよ。


「静子さんこれ…」


セレスくんが指を指した先には求人票が貼ってあったわ。


「これゼクト達、勇者パーティの求人じゃない! あの子なにやっているの…」


結局、こうなったわね…


家事が得意で面倒見がよくて、事務仕事を全部やっていたセレスくんを追い出したんだから、当たり前よね。


しかし、人様の子を悪く言いたくは無いけど、女の子が三人もいて、誰も家事が出来ないのね、本当に何をやっているんだか…リダちゃんなんて、ハルカやカズマの子、食堂の1人娘なのに、剣聖にならなければ食堂の跡取りだったのに、よくハルカが家を手伝わないと怒っていたわね...まぁゼクトの母親の私が言える義理じゃないわね。


ゼクトはセクトールの影響を強く受けているから、一見優しくて強く見えるけど…精神的にも脆く、逃げ癖がある。


此処で踏みとどまってくれれば良いけど…


まぁ、成人しているし『勇者』なんだから、自分達で頑張るのね。


「これ、大丈夫かな…」


「まぁ、無理よ! こんな条件で働ける猛者は居ないわね」


どう考えても無理だわ。


まず第一に勇者パーティと一緒に旅をする事。


此処から無理、魔王討伐の旅の中自分の身を自分で守る。


そんな事が出来る人物は、宮仕えなら王宮騎士団、冒険者なら最低Aランクにしか居ない。


そんな強い人物で、家事や書類仕事が出来る…うん、なかなか居ないわ。


大体、そこ迄の実力者ならお金なんて稼げるし、何も何年も苦労して魔王軍と戦おうとしない。


それにセレスくんの料理は村で1.2、料理馬鹿のカズマさんが居たから2番。


セレスくんだってその気になれば料理人になれる位凄いのよ。


主婦だって此処迄料理出来ないわ。


『魔王軍から自分の身を守るどころか露払いをし、雑ごとを全部こなして世話を焼く、そして料理は一流シェフ並み』


こんな人物はまずいないわね。


ううん、絶対に居ないわ。


『理想の夫』で『理想の息子』そして『理想のお嫁さん』でもあるわ。


幾ら探しても無理ね。


「確かに、こんな凄い人物居ないよな」


その凄い人物がセレスくんじゃない?


「うふふっ、そうね、居ないわよね!」


大方、女癖が父親譲りに悪いゼクトだから、ハーレム欲しさにセレスくんを追い出したんでしょう。


うふふっ、そのおかげで私は凄く楽しい生活をしているわ。


きっと、貴方、いえ貴方たちはこれから、セレスくんを失った苦労をするのよ。


「そうだよな…」


セレスくんは自分の価値を解ってないわ。


◆◆◆


「今回はオーク34体ですか? 相変わらずで、凄い活躍ですね『漆黒の英雄』は」


「漆黒の英雄?」


「漆黒の英雄って何かしら?」


「勇者パーティが『希望の灯』と呼ばれて居るのに対して別動隊である、セレス様や静子様を別動隊って呼ぶのもなんか可笑しいので、冒険者ギルドで考えたんです。セレス様の『英雄』静子様の『黒髪の癒し手』二つを併せて『漆黒の英雄』そう呼ぼうって…どうです?カッコ良いでしょう?」


「なんだか中二病みたいで恥ずか…」


「うん、凄く良いわ、カッコ良いわね、セレスくん」


「静子さんが良いなら、まぁそれで良いか」


「うふふっ、嬉しいわね、流石に別動隊じゃ寂しかったもん」


「そうだね…」


相変わらずセレスくんは恥ずかしがりやね。


昔から派手な事を嫌うからか、余り嬉しそうにないわ。


「あと、もう一つ報告があります! 静子様のランクがSランクに上がりましたぁ~おめでとうございます!」


「ちょっと待って! 私、そんなに活躍してないわ」


「そんな事ありません! セレス様と組んでオーガキングを含む30体の討伐、そして今回はオーク30体!充分な実績です! 元のAランクも暫定的なもので、昔の実力と遜色がなければ、元に戻す予定だったんです」


「そうだったのね」


ベイ坊、そんな事言ってなかったじゃない。


私を試したのね…まぁ良いわ。


「静子さん、おめでとう!」


「ありがとう、セレスくん!」


「これで、数少ない、S級冒険者パーティの誕生ですね! 当ギルドからも祝福させて頂きます! おめでとうございます!」


気がつくと周りに職員さんや他の冒険者の方たちが来て拍手してくれた。


「「「「「「「「「「おめでとう静子さん! おめでとう『漆黒の英雄』」」」」」」」」」」


これはやっぱりお金を出さないと駄目なパターンね。


「セレスくん、良いかな?」


「勿論、今日は静子さんと俺のおごりだから好きなだけ食って、飲んでってくれ」


「「「「「「「「「「ありがとうございまぁーーす」」」」」」」」」」


まぁ冒険者だからこんな物ね。


皆に祝福されながら私達は笑顔で冒険者ギルドを立ち去った。



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