第21話 『黒髪の癒し手』 静子


「ねぇねぇ、セレスくん、私も一緒に狩りをしちゃ駄目?」


セレスくんのいう『専業主婦』って言うのは凄く素晴らしいし、嬉しいわ。


多分、普通の女性なら、この生活は最高だわ!


だけど、セレスくんと居ると昔を思い出してしまうの…


女の幸せの為に捨ててしまった、もう一つの夢。


「出来る事なら、一緒に戦ってみたいな…なんてね!」


「う~ん、本当は心配だから、一緒に狩りをしたく無いんだけど? 静子さんがしたいなら構わないよ…」


雰囲気からして、凄く心配してそうね。


「んっ、忘れて居ない? これでも元はS級冒険者『黒髪の癒し手』で今もA級冒険者なんだからね…S級は世界で数名、A級だって50人も居ないわよ!」


「確かにそうだけど、心配なんだ…」


「うふふっ、心配なんかないわよ?! 私、一人で戦う訳じゃないわ! 私が危なくなったらセレスくんが助けてくれるんでしょう?」


「そうだけど…」


セレスくんは凄く優しい…


確かに今の生活は魅力的だけど、私だってセレスくんが心配。


S級でドラゴンスレイヤーに何言っているんだ。


多分、皆はそう思うと思うわ。


だけど、私はこれでも回復にたけた冒険者だったし、そこそこは実力もあるわ。


自分が居ない事で『万が一』があったら…それの方が怖いのよ。


「そんな心配そうな顔をしないの…」


「静子さんは頑固だから、仕方ないか…了解」


「それじゃ、明日にでも早速、依頼を受けて良い? 今回はセレスくんは見ているだけで良いわ」


「解った」


とはいう物の15年近くのブランクがあるのよね…簡単な物からにしよう…



◆◆◆


「静子さん、俺こんなの聞いて無いよ! 悪いけど加勢させて貰うから!」


セレスくんが驚くのは当然だわ。


何しろ、此処にいるのはオーク。


女の天敵なんだから…しかも数も30は居るわね。


「セレスくん、昨日約束したはずよ?今回はセレスくんは見ているだけで良いわ!」


「でも…」


「そう、心配そうな顔をしないの? これでも貴方が『英雄』という字(あざな)で呼ばれて居るのに対して私も『黒髪の癒し手』と言われているのよ、この位は大丈夫よ!」


「解った…その代り、危なくなったら、すぐに飛び込むからね」


「うふふっ、心配症なんだから、あの位なら余裕だわ」


久々の戦闘…うふふっ、楽しみね。


「正面から行くわ…」


「静子さん、武器…」


「うふふふっ、この程度の相手なら杖は要らないわ!素手で充分よ」


久しぶりだわ、この感覚。


「静子さん!」


「うふふっ、黒髪の癒し手の戦い方を見せてあげるわ…」


そのまま、私はオークの群れに飛び込んでいく。


「ホーリーサークルーーッ」


光で円の刃を作り、相手にぶつける数少ないヒーラーの攻撃魔法。


刃が飛んでいき、オーク位なら簡単に真二つになるわ。


「「「「「ブモモモーーッ!」」」」」


「ホーリーアーマーッ」


これは、ホーリーウォールの応用。


小さな光のバリアを体に鎧の様に纏う。


これなら、オーガの攻撃位迄なら直撃しても無傷よ。


そして…


「ライトバサーカーーーッ」


これは、『バサーカー』の呪文の様に理性は無くならない。


自分の中の凶暴性が数段上がる呪文。


相手を殺す事に、快楽を覚え何処までも残酷になれるわ。


「「「「「「「「「「ブモモモーーッーーーッ」」」」」」」」」」



「うふふふっ、あはははははっーーー死ね、死ね死ねーーーっ」



ホーリサークルを放ち相手を切断し、ホーリアーマーで身を守りながら、ライトバサーカーで精神を高揚させながら敵を殲滅する。


そして、傷を負ったら、瞬時に自分にヒールを掛ける。


これが『黒髪の癒し手』としての私の戦い方だわ。


「うふふっ、あはははっうふふふっ…あははははっ」


目の前にいる敵は全部皆殺し…この戦い方の最大の欠点は、余程親しい人間じゃ無ければ敵とみなして殺してしまう事。


だから、他のパーティとは共闘出来ない。


「うふふふふっ、まだ生きているのね? 豚の癖に…あははははっ、死んじゃいなさい…あははははははっ」


そして、余りにも、周りから残酷に見える。


私は、これでも生物を殺すのが苦手だったの。


この魔法を使って、初めて殺せるのよ。


仲間を守る為には、残酷になる必要もあるわ。


その為に、これを身につけたのよ…セレスくん…これが冒険者としての私。


嫌われるかな? この戦い方だから、婚期を逃しそうになった位だから…


だけど…セレスくん、貴方には見せたい。


そして出来るなら…嫌いにならないで…今迄通りの笑顔で居て欲しいな…



◆◆◆


「セレスくん…」


嫌われちゃったかな…でもセレスくんなら大丈夫よね!


「静子さん! 凄いカッコ良かった…うん、これなら安心だね」


「セレスくん、ありがとう」


「静子さん…ちょっと…まさか…」


「うん、そのまさか…駄目?かな」


「駄目じゃないけど…」


この後、私はセレスくんを貪るように抱きしめた。


嬉しいと言う気持ちと、恐らくは興奮していたから…なのかな…


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