第19話【閑話】二つの手紙

結婚したんだし、ゼクトに手紙位は書くべきよね?


私はセレスくんと相談して手紙を書く事にしたわ。


セレスくんを追い出した馬鹿息子とはいえ、勇者だし、今後は別動隊…近況位は伝えないとね。


「静子さん、本当に良いの?」


「良いのよ!あの子はゼクト―ルと同じで、私の事は貶してばかりだったわ…それに、そろそろちゃんとした大人になるべきよ! 大体、勇者なんかになったから、余裕ある生活しているけど、普通に農業していたら、朝から晩まで土まみれで働く生活が当たり前なのよ、他の三人だって花嫁修業をして家事を覚えて家の手伝いをしているのが当たり前なのよ…違うかな?」


「そう言われれば、そうだね、俺が甘やかしすぎたのかな?」


「セレスくんは優しいから…だけど村で暮らしている同世代の子は皆、家事位は出来るし、商人になりたい子はしっかり書類の読み書きを覚えるわ」


「確かに、そうだ! もうゼクト達は成人、俺が気にする必要はないか」


「セレスくん、これは見放す訳じゃないわ…普通にゼクト達は親離れする時期なの…それにセレスくんは追放された側だし気にする必要は無いわ」


「確かに、そうだね」


私達はゼクト宛に手紙を出しました。





【勇者パーティSIDE】


セレスを追放するべきじゃ無かったんだ…


このパーティで、本当にセレスは必要な人間だったんだ…


「なんで金が無いんだよ」


「そんなの私に聞かれても困るわよ!」


「まさか、セレスが持ち逃げでもしたのかしら」


「マリア、セレスはそんな事はしないよ、真面目が取り柄みたいな人だもの」


「いやだわ、メル冗談ですよ、冗談」


教会からお金が振り込まれなかった。


詳しく聞いてみれば、教会や冒険者への書類の提出は全部セレスが全部やっていて、それが提出されないとお金が貰えないそうだ。


パーティの中で一番、頭が良いメルに書類を頼んだら…


「確かに出来なくはない無いけど、これ村長が書く領主様への進言書並みに大変だよ! これを私がやるなら他の仕事は免除して欲しい」


そう言われた…


「メル、それは可笑しいだろう? セレスはその書類をしながら、雑用もしっかりこなしていたぞ」


「リダ、だったらこの書類作業リダがやってくれない! 文字は読めるし書けるんだからさぁ、マリアでも良いよ! そうしたら私、雑用頑張るから…これ本当に嫌!」


凄くブチ切れていた。


仕方なくメルに雑用を免除して書類や申請を頼んだ。


「報告書、めんどくさい! なんでこんな複雑なのかな? 後で皆が最近買った物の名前と幾らだったか教えて! ゼクトは当分の目標と魔王討伐に対して、それがどんな訓練になるのかもね!」


それでも、メルは何時もイライラしている。


食事だってそうだ、


三人の作る飯は美味しくない。


「リダ…これもう少しなんとかならないか?」


「私が作る飯が嫌ならマリアに作らせるか、ゼクトが作るしかないよ? メルは免除なんだから…」


「私は文句いわないから…私よりリダの方がまだましだから」


マリアが飯を作ると消し炭になるから、剣聖のリダが作る、塩焼きばかりの飯の方がまだマシだな。


『セレスのオムライスは美味かったな』


そんな事を考えてしまう。


言わなくても三人もきっと同じだ。


結局、女性ものの下着や服を俺が洗いたくないから宿屋、必要な物の手配や買い出しが俺の役割になった。


そして、マリアが洗い物をする事になった。


こんなんで討伐に集中できるか…俺だけじゃなくて三人もそう思っている筈だ。



このままでは駄目だ、本当にそう思い始めた。


日に日に皆が汚くなっていく。


髪型なんてマリアやメルはボサボサだ。


唯一真面な状態のリダに聞いて見た。


「そりゃ無理だろう?」


「無理ってなんでだ? 化粧水から洗髪水までちゃんと買ってやっているんだぞ」


「髪型で言うなら、私はただ後ろで縛っているだけだから、綺麗に洗えば問題はないよ? だけどあの二人の髪型は当人の要望で髪を乾かしてセレスが整えてやっていたんだ…自分で出来ないからそりゃボサボサにもなるさ」


此処でもまたセレスか。


このままじゃ真面に旅なんて出来なくなるぞ。


皆が疲弊してしまう前に何とかしないと。


冒険者ギルドに相談しても、教会に相談しても駄目だった。


『雑用な得意な者はおりますが、自分の身を守れる位強い者は居ません』


雑用が得意な者は力が弱く、俺達の戦うレベルの敵から自分の身を守りながら戦う事は出来ない。


強い存在は、家事が得意な者は少なく、稼げるから仲間になりたがらない。


詰みだ。


「セレスに謝って帰ってきて貰おうか」


「そうね」


「そうだな…」


「そうしよう」


もう、それしか無かった。


「それで、条件だが…どうする?」


ハーレムパーティにしたくて追い出したのはみえみえだ。


そこを改善しなければ無理だろう。


「「「…」」」


どうすれば良いか皆解っている。


「誰かが、セレスの恋人になるしかない…」


苦渋の決断だ。


「そうだな」


「そうね」


「それしかないよね」


誰にするかは決めてないが、取り敢えずは、そういう事で話が纏まった。


◆◆◆

冒険者ギルドに行き手紙を出す事にした。


誠心誠意お詫びを込めた手紙を書き…条件もしっかり書いた。


1. 生活費や必要経費をしっかり支給して貰う約束をした事。

2. 三人のうちの誰かを正式に婚約者として認める。

3. 魔王討伐の後の身分保証


俺たちなりに考えたんだ。


ちゃんと反省したんだ…


「ゼクト様、手紙が来ていますよ?」


セレスから手紙が届いた。


「手紙?!」


「はい、セレス様からです」


「セレスから手紙だってよ!」


「何が書いてあるのかな? 追放されて寂しいとか?」


「そうよね、幼馴染だもん、心配してくれたんだ」


「良かった…」


「良いか、セレスが戻ってきてくれたら、誠心誠意謝るからな、あと悪いが…」


「解っているって…セレスが選んだ1人が婚約者になれば良いんだろう…僕でも良いよ」


「まぁね、この際仕方ないわ」


「うん」


「それじゃ…あけるぞ…嘘だろう…」


「「「どうした(の)」」」


手紙にはセレスと母さんが結婚した…そう書かれていた。


あれ…本当だったのかよ…


親父の馬鹿が母さんを売り飛ばして、奴隷になった母さんをセレスが助けて、そのまま付き合い結婚しただと…


何故俺は忘れていたんだ。


彼奴は小さい頃から言っていたじゃないか。


『僕、静子さんが好きなんだ』


『大きくなったら結婚したいな』


そう言っていた。


しかし、親父何やっているんだ?


確かに仲は悪かったし、母さんは口煩い嫌なババアだったが…


俺の支度金が山ほどあったのに、売り飛ばしたのかよ…普通しないだろう…


いや、あるな…俺の親父は母さんが嫌いだった。


家事奴隷位にしか思って無かったのかも知れない。


生真面目な母さんをお金が手に入って邪魔になったから売り払った…きっとそうだ。


思い出した。


あのクソ親父小さい頃


『僕、静子さんと結婚したいな』そうセレスが言っていた時


『そうか、セレスお前が15歳になる頃には彼奴は良いババアだ…そうだな金貨1枚で譲ってやるよ』


そう言っていたじゃないか? 


何故、忘れていたんだよ…セレスが好きな奴はこの三人に元々居なかった。


彼奴が好きだったのは母さんだった。


もう親父も母さんも冷めきっていた。


先に俺が気がついていたら…親父に金を払って別れさせ、セレスに与える事も出来た筈だ。親父は金で転ぶから簡単だし、クズだが何故かセレスを気に入っていたから案外、金貨1枚で約束通り譲るかも知れない。


母さんは口煩く真面目ぶった嫌なババアだが、セレスと母さんを別の宿にすれば良い


何故、俺は気がつかなかったんだ。


何故、俺は忘れていたんだ…



「はははっ静子さんか? うんうん子供の頃から好きだって言っていたわ、ぶれないね」


「まさか子供の頃に言っていたの…本気だったのね」


「これは無理だよ…諦めようゼクト…」


「そうだな…諦めよう」


親友が誰を好きだったのか…忘れていた、確かにお前は母さんが好きだったよな。


母さんの字で『邪魔しないでね♡』はないわ。


流石にあの二人のイチャつく姿は、駄目だ、やっぱり見たくねーよ。


「「「ゼクト」」」


「諦めよう」


俺は書いて来た手紙を破り捨てた。







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