第18話 ドラゴンズレイヤーとギルド婚



帝国に行く途中の街で冒険者ギルドによったのよ。


色々聞きたい事もあるしね…


聞いてみたら、可笑しな事にセレスくんはまだゼクトのパーティーに籍があるみたいだわ。


「勇者であるゼクトと話して円満離団となった筈なんだけど!」


「ギルド側としましては、リーダーのゼクト様とセレス様の両者の署名の離団届けが出されていませんので、そのまま籍が残っていますね、口座管理は別だし、干渉は無い感じですから、別にそのままでも良いんじゃないですか? 弊害は多分、無い筈です」


「弊害は本当に無いの? 今後ゼクトと共闘する事は無いし、もう魔王軍と俺は戦わないつもりなんだけど?それでも問題は無い?」


「ちょっと待って下さい! 調べてみますから」


「悪いけど、そうしてくれないかな!」


可笑しいわね。


それなら、何で私とパーティが組めたのかな?


「あの、ですが、私セレスくんとパーティ組めているんだけど可笑しくない?」


「ちょっと待って下さい! ああっ成程! 問題無いですね…『希望の灯』の別動隊扱いになってますよ、パーティを組む時にパーティ名の登録の話を職員がしなかったでしょう?」


「確かに言われれば、聞かれなかった気がする」


「別動隊としてのパーティ登録だからですよ」


「それだと、静子さんの扱いはどうなります? ゼクトと話を全くして無いのですが」


「別動隊のリーダーはセレス様だから問題はありませんね、公の肩書としては『希望の灯別動隊 リーダー セレス』『希望の灯別動隊 メンバー 静子』となります」


だけど、勇者パーティに籍が残るのが気になるわね。


まさか、特権も使えるのかしら?


「勇者パーティの特権はどうなりますか?」


「勇者パーティの特権はそもそも、一度でも所属すれば、そのまま通用します! 通常は勇者パーティから抜ける時は、死ぬか、戦えなくなる時です、そんな方から特権を奪う事など国もギルドもしません」


確かに無傷で勇者パーティを抜ける存在は少ないわね。


「それだと私も勇者パーティ所属となるのかしら?」


「正確には別動隊の所属ですね、本隊とは関係なく、セレス様の部下という扱いが一番近いかも知れません…あっあと前のギルドでドラゴンスレイヤーの称号の申請が出されまして許可が下りたみたいですね」


「本来、それは王様や教皇様から勲章と一緒に直接貰うんじゃないのかしら?」


「勇者パーティの旅の途中だからと特例で略式で許可が降りたみたいです、肩書きは冒険者証に後で記入しますから、今日から名乗って大丈夫ですよ…報奨金は後日振り込まれます、岩竜のお金も一緒みたいです…叙勲は多分ゼクト様の魔王討伐後とかになるかも知れません」


「凄いじゃないセレスくん、ついでに聞くけど他のメンバーで竜種を狩った人は居るのかしら?」


「ゼクト様が亜竜のワイバーン、リダ様が同じくワイバーンを単独で狩っていますが亜竜なのでドラゴンスレイヤーの称号は貰えません…ここ数年ではセレス様だけですね…おめでとうございます」


「へぇ~あのゼクトがワイバーンをね、少しはやる様になったじゃない」


「幾ら親しくても相手は勇者様です『様』をつけた方が良いですよ!遊撃隊扱いなのですから」


「静子さんはゼクトの母親なんだ、だから構わないと思うんだけど駄目なのかな?」


「お母さまでいらっしゃいますか? 失礼しました」


「うふふっ、別に構わないわ、今はセレスくんの恋人だから」


「はい? ですが静子様はセレス様の奴隷ですよね?」


「そうね、うふふふっ『愛の奴隷』かしら?」


「セレス様…これはどういう事でしょうか?」


うふふっ、まぁ普通は驚くわね。


母子程齢の離れたカップルだし…


それに勇者パーティは幼馴染で構成されたパーティなのは有名だわ。


セレスくん…一生懸命説明しているわね。

そこ迄説明しなくても良いのに…


「そのセクトールって親父、女の敵ですね! 事情は解りました、ギルドとして何か出来る訳じゃありませんが、記録にしっかり残して置きます…それでですね、愛し合う二人に提案があるのですが『ギルド婚』なさいませんか?」


「そんな、私…おばさんなのに…うふふっ恥ずかしいわ」


『ギルド婚』ね…正式な結婚の手続きだわ。


この世界には、教会とは別にギルドで誓う結婚があるの…


セレスくんと結婚…うふふふっ…


「ギルド婚って何でしょうか?」


あっ、セレスくん、知らないんだ。


よく考えたら、セレスくんの性格なら知っていたら、前のギルドで手続きした筈だわ。


確かに、村じゃネックレスを渡して、村長に誓うだけのほぼ事実婚だけだったわね。


よく考えたら、セレスくんが小さい頃、どんぐりの首飾りくれたわね。


懐かしわね…あの時の気持ちも本物だったのよね…


「結婚の事ですよ…ギルドに『結婚しています』そういう届けを出すシステムです、結婚と言えば教会が主流ですが、最近では利便性から冒険者の方はこちらを選ぶことが多いです、何かあった時の連絡や口座の管理も便利になります」


セレスくんと結婚…あらいやだ、顔が赤くなっちゃうわ。


「静子さんさえ良ければ『ギルド婚』しないか?」


「あの…本当に良いの? かなり私は年上だし…これは正式の物なのよ、後悔しない?」


「後悔なんてしないよ! 先に好きになったのは俺だから」


「そうね、うん、私とギルド婚して下さい」


「喜んで」


セレスくんなら、ちゃんとしてくれるって信じてたけど、実際に『結婚』ってなると…嬉しさが全然違うわ。


「おめでとうございます! 心から祝福します…それで登録料としまして銀貨2枚頂きます、それとお揃いのリングは如何ですか?いま冒険者の間では、ネックレスだけじゃなく普段使いのお揃いのリングを身につけるのが流行りなんです、こちらはペアで金貨1枚です」


セレスくんとお揃いの指輪…うふふっ、いいなぁ。


貴金属なんて興味は無いけど『お揃い』なのは嬉しいわ。


「それじゃリングも貰おうかな」


「ありがとうございます、それじゃお互いに嵌めてあげて下さいね」


セレスくんがおずおずと震えながら指輪を嵌めてきたわ、私も少し手が震えるわ…


だって、これで正式な夫婦って事なんだもの…


あらっ、簡単な魔法が掛かっているのね、リングは丁度良い大きさに自動的に変わったわ。


うふふっピッタリね。


「おめでとうございます、それではこちらの書類にサインをお願いします」


「それじゃ俺から書くね…はい」


「うふふっ、それじゃ今度は私ね」


お互いにサインをすると『結婚』したんだ、そういう思いがさっき以上にこみ上げてきたわ…


これで、私は正式に、セレスくんのお嫁さんなんだって…


「もし宜しければ、酒場で皆さんに奢ってあげては如何ですか? エール一杯奢る位で、皆さんから祝福して貰えますよ…銀貨5枚です」


この受付嬢、商売が本当に上手いわね。


お人よしのセレスくんが断れるわけないじゃない?


「みんな~!俺はエール1杯なんてケチな事は言わない…今日一日好きなだけ飲んでくれ、金貨5枚置いていくから…お姉さん頼むよ」


ほうらね…


「皆、セレス様と静子様のおごりだよ~今日は貸しきりだって!祝ってやってあげて~」


「「「「「「「「「「おめでとう」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「幸せに成れよ~この色男っ」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「「静子さん、セレスさんご結婚おめでとうございます」」」」」」」」」」


うふふっ、この齢でまさか結婚式みたいな事するなんて思わなかったわ。


今迄も本当に愛していたけど…愛しているわセレスくん。


私はそっとセレスくんの腕に手を絡めた。




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